働く広場2015年10月号
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2働く広場 2015.10「働く」ことで育はぐくまれる自尊心特別支援学校では、就労支援にさまざまな創意工夫が行われている。その労を多としたうえで、少し距離を置いた観点から、その目ざす方向性に関して提起をしてみたい。第1に、知的障害のある人たちは、情報処理の働きに不自由があることをさげすまれ、人格をおとしめられがちであった。「働く」ということが、ヘーゲル※1の指摘するとおり、〝自分自身を形成・創造・実現していくこと〟であるならば、まず、働くことは、自尊心を高める過程でなければならない。そのためには私たちが、この「知能の高低で人間を評価する」という言説を批判し、社会的人格を尊重できること、および、本人が、ありのままの自分に心の底から胸を張れるようになることが求められる。ここで重要なことは、「自尊心」の「自分」をどうとらえるか、である。E.フロム※2は、〝ビーイングとしての自分〟と〝ハビングとしての自分〟というとらえ方をした。ハビングとしての自分とは、情報処理能力や容姿などの「所有しているものとしての自分」である。「自己効力感」は、「自尊心」と混同されがちであるが、ハビングとしての自分の拡張感を指しているといえる。もちろん、生産性の効率への評価を否定しているのではない。自己効力感を評価すると同時に、その分母(基盤)として、ありのままの自分(ビーイングの自分)に誇りが持てるように、また、自分より重い障害のある人を尊敬できるように、生徒の知性を引き出していかねばならない。そして仕事体験と連動させて、①自分のなかにある固有な「いのちのパワー」に気づくこと、②弱さの持つ意味、重荷を負って生きる意味、多元的価値観を社会に提供する意義に気づくこと、をうながしていきたいものである。就労は手段であり、目的は自尊心向上にある。自尊心の変化の測定に私自身もトライしたい。第2に、ジャン・イタール※3が「アヴェロンの野生児」の扉にコンディヤック※4を引用して主張したように、人のパーソナリティは、人間関係によって形成されていく。つまり、豊かなパーソナリティ形成のためには、多様な人との関係づくりが重要である。しかし現実には、知的障害のある人は、「障害者集団」と、「支援職」と「家族」という狭い人間関係に限られがちである。特別支援学校では、この点を意識して、多様な人と物語を織り成す関係づくりに、さらに取り組んでもらいたい。龍谷大学短期大学部では、知的障害のある人が30数人、年間15回ほど通学し、学生と交流学習を行っている。大学との協働も一層の推進が期待される。第3に、本人にとっての適職探しである。※1 ヘーゲル:18世紀ドイツの哲学者、思想家※2 E.フロム:アメリカで活躍した社会心理学者。主著に『愛するということ』など※3 ジャン・イタール:1800年、森で保護した裸の少年をパリで教育した。知的障害者教育の父、E.セガンの師※4 コンディヤック:18世紀フランスの哲学者龍りゅうこく谷大学短期大学部教授加藤博史特別支援学校の就労支援に求められているもの●特集● 特別支援学校の取組み

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