働く広場2015年10月号
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3働く広場 2015.10障害特性、性格、長所、要望などを把握し、どんな仕事がふさわしいのかを探索していく必要がある。寿司職人、畳職人がピッタリという人に流れ作業というミスマッチをしていないか点検しなければならない。社会に適職を創り出していくことも重要である。滋賀県で知的障害者の就労支援に取り組むNPO法人代表の溝口弘氏は、知的障害のある「けい子さん」に、要介護高齢者の脚を優しくさする仕事を創り出し、双方に喜ばれている。第4に、就労支援は、生活の質の向上支援とトータルに進められる必要がある。親の手から離れていくリービングケア※5、家事、家計のやりくりなどのIADL能力※6の開発、自己表現の機会と表現手段の提供、「遊びや趣味を楽しむ」手段の提供、認知行動療法によるプラス思考学習の機会などが総合的に提供されているか点検する必要がある。第5に、就労中、不安・不満をタイムリーに受けとめてもらえる場の充実である。たとえば、土・日曜日に母校の一室で、大学生が手助け役となり、グループワークの機会を提供するなどはどうか。教えることは最大の学習である。トラブル対応や疲労のリズムのつかみ方、自分の気持ちの抑制方法など、自分の経験を語り合うことは、相互のエンパワメント(主体者としての力の発揮)につながる。第6に、コミュニケーション能力の開発が挙げられる。SST※7で意思を明瞭に伝える技術習得も意味があるが、相手の辛さを推し量る自分をもつこと、考えや気持ちを自己対話的に熟慮する自分をもつこと、自分をTPOに合わせて甘やかしたりあやしたり、ほほえみかけたりすること、などの自己形成にこそコミュニケーションのカギがあるのではなかろうか。求められる柔軟で多様な支援最後に、特別支援学校校長として、デュアルシステム※8に取り組み、就労支援を推進してこられた芝山泰たい介すけ氏(現在、京都市教育委員会総合育成支援課首席指導主事)からの教示を挙げておきたい。芝山氏は、就労支援の要点として、①「自分が役立っているという実感を持てるようにする」など、「やる気」を引き出すこと、②多問題を抱えた家族に総合的な支援をすること、③「環境のスイッチを入れる」との表現で、「適職」をマッチングすることを指摘された。また、拙稿の第5の提起に関しては、「学校への心理的依存を強めることがないように、就業・生活支援センターなどの機能充実が重要」、との教えを受けた。「やる気」に関しては、「ホーソン工場の実験」※9が示唆するように、「注目」される立場を提供することが効果的であろう。また、生きる力は、困難を乗り越えることによってしか身につかない。したがって、当人に合った挑戦課題(3カ月で実現可能な楽しい目標)の調整、および〝評価と受容〟の均衡ある提供が欠かせない。かつ目標は、可視化し、創造の喜び、ともに生きる喜びをもたらすものでありたい。家族支援に関しては、スクールソーシャルワーカーの活用を特別支援教育の専門家らが推奨している。「環境のスイッチ」については、拙稿の第3と重複するが、障害者の職場が限られた分野にかたよりがちなだけに、生態学でいう「適所(ニッチ)」を、企業、地域、行政が協力して創出せねばならない。農林漁業や職人の仕事の再評価がヒントになろう。その意義を、特別支援学校は大いに発信していく必要があるのではないだろうか。加藤博史 (かとうひろし)1949(昭和24)年生まれ。同志社大学大学院修了。社会福祉学博士。学生時代は、日本で2番目に創設された知的障害者施設「白川学園」にボランティアに通う。14年間、ソーシャルワーカーとして精神科病院で勤務の後、京都文教短期大学講師、助教授を経て、1998年より現職。現在、龍谷大学短期大学部教授(専門は、社会福祉原論、精神保健福祉論)。社会福祉法人京都光彩の会理事長、京都精神保健福祉施設協議会会長、京都市障害者施策推進審議会会長、京都市障害者就労支援推進会議議長など兼務。主著、『福祉哲学』(単著)、『共生原論』(単著)(晃洋書房)、『福祉とはなんだろう』(編著)、『司法福祉を学ぶ』(編著)(ミネルヴァ書房)など※5 リービングケア(Leaving care)親元を離れる感情的な心のケア※6 IADL能力:手段的日常生活動作の能力。掃除、洗濯、調理、電話のかけ方などの能力※7 SST:社会技能訓練。挨拶、小会話、断るなどの技能も含む※8 デュアルシステム:教育と職業訓練を同時に進めるシステム※9 ホーソン工場の実験:シカゴの電器組立工場での作業能率向上の要因究明実験。職場の良好な人間関係が作業効率を上げる

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