働く広場2017年2月号
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19働く広場 2017.2 作品展の開催中に、ライブペイント(公開制作)を企画したときのこと。作品だけでなく、描く姿も独特のスタイルが魅力的なYさんは、当時ただ一人ライブペイントの経験者で、このときも彼に登場を願うつもりだった。以前、カフェで行ったライブペイントがきっかけとなり、著名な絵本作家の方々と同じ舞台に立つ機会を得て、100人の観客を前に絵を描いたこともあるYさん。「久々の出番だね!」と、早く本人に告げたい気分を抑え、改めて会場となるバーのスペースを見てみたところ、思わぬ事態が判明した。彼のステージとなるスペースがどうにも取れない。というのも、Yさんは画用紙を床に敷き膝をついて座り、不随意運動による身体の揺れをうまく使いながら、線を重ねるように絵を描く。しかし、バーの椅子はカウンタータイプのため、お客さんが高い位置から見下ろす感じになるうえに、細長い空間なので、後ろの人はほとんど彼が見えない状態となってしまう。「見えないかなぁ?」、「いやぁ、見えないでしょう」と、スタッフの間で検討した結果、「今回は壁面にパネルを立てて行うのがベストだろう」となった。よって、Yさんには申し訳ないが、図らずも〝別のだれかが初めてライブペイントに挑む〞という機会が訪れた。 候補として、OさんとMさんの名前があがった。作品がポスターやTシャツなどに起用されることが多い2人。ただ、いつも描いている画用紙より遥かに大きいパネルに、うまく形をとれるだろうか? 普段は自分のペースで描いている作品を、かぎられた時間のなかでタイミングよく仕上げることができるだろうか? 気になることはいろいろ出てくる。ではOさんかMさん、どちらにお願いしようか、となった段階で、「どちらか一人では心配だから、2人でやってもらってはどうか?」と導いた僕らの弱気が、後に奇跡のOMコンビを生むことになる。 しかし、実はこの時点では、2人の仲がよくないことをみな知っていた。かつてOさんの個展を観て、「自分も個展をやりたいです」と宣言し、絵を始めたMさん。Oさんに追いつき追い越せのはずが、なぜかひたすらライバル心ばかりが激しく燃え上がり、傍はたからは、Oさんを一方的に嫌っているように見えた。2人に出演を打診すると、案の定Mさんの眉み間けんにシワが寄ったが「今回、2人はチームなんだ」とくり返し強調。さらに、2人とも大好きだという〝戦隊モノ〞の名前をコンビ名に冠かんしてもらって、無事、結成の儀を終えた。 2人にはいつもの彼ららしく絵を描いてもらいたい。飄ひょう々ひょうと迷いなく伸びやかに描くOさんと、丁寧に少しずつ描き進める Mさん。真剣な眼差しは、僕には作品以上に魅力的に映る。とはいえ、お客さんあってのライブペイント。約90分でどう仕上げるか。そもそも2人は自分よりも大きいベニヤ板に描けるのか!? 本番の一週間前、リハーサルを行った。 ライブペイント当日、夕刻を過ぎたバーにお客さんが集まってくる。取材のカメラも入り、店内の密度は高かった。ステージとなる壁には、下地を黒く塗ったパネルが3枚。リハーサルの結果、時間内に完成するかどうかは何ともいえないことがわかり、過去の作品を見返したときに発見した〝黒バックに白で線を描くと塗り残しに見えない〞現象を活かすことに。また、描き進めるペースも、OさんがMさんの倍くらい早かったので、中央のパネルをMさんに、その両サイドのパネルをOさんに担当してもらうことにした。そのほか、絵の具や筆などの画材も数種類ずつ試して、最適と思われるものを準備。決して失敗を恐れているわけではなく、仕上がりも含めて、僕らが魅力に感じている2人の〝らしさ〞が、そのまま観ている人たちにも伝わるように、と考えていた。本番直前、もう僕らにできることは何も無い。 2人が入場してきた。画材を載せたお盆を手に「いらっしゃいませ〜!」。息の合わない2人の声に、会場が和やかな笑いで包まれた。2人の時間が始まった。いろいろで、まる。終了後、握手を交わし友情を取り戻した2人第3回〈最終回〉特定非営利活動法人まる 工房まる主任。障害のある人のアート活動を通して、展示会やイベント、グッズの企画・制作など、さまざまな人々やモノ・コトと「時間」や「空間」といった“間”を共有し、障害の有無にある"あいだ"をぼかしていく仕掛けを行う。http://maruworks.org/池永健介かっこいいYさん描き上げた直後の2人

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