働く広場2017年12月号
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2働く広場 2017.12福島学院大学大学院星野仁彦発達障害に気づかない大人たちへのプライマリー・ケア(初期対応)発達障害とは、注意力に欠け、落ち着きがなく、ときに衝動的な行動をとる注意欠陥・多動性障害(ADHD)、対人スキルや社会性に課題のある自閉症やアスペルガー症候群(AS)などを含む広汎性発達障害(PDD)、読む・書く・計算など特定の能力の習得に難がある学習障害(LD)などの総称である。これらは生まれつき、あるいは周産期のなんらかの要因(遺伝、妊娠中・出産時の異常、新生児期の病気など)で脳の発達が損なわれ、本来であれば成長とともに身につくはずの言葉や社会性、感情のコントロールなどが、未成熟、アンバランスになるために起こると考えられている。ひと言でいえば脳の発達が凸凹なのである。発達障害は決して稀なものではない。いくつかの調査によれば、例えばADHD、LDとされる子どもの割合は15歳未満で6〜12%にのぼる。なぜ近年注目を浴びているのか近年、「発達障害」という言葉は世の中にだいぶ認識されてきた。マスコミや書籍で取り上げられることも増え、最近は医療界だけでなく、教育、心理、福祉など幅広い分野で注目を集めており、大学でも発達障害のある学生への支援体制を強化する動きが出ている。ADHD、LD、ASなどの発達障害が近年注目を浴びるようになったのは主に以下の理由があると思われる。1.予想以上の高い比率で存在する。2.ストレス耐性が弱く、不利な環境に対して反応を起こし、二次障害(不登校、非行など)や合併症(うつ病、不安障害、依存症など)を示すことがある。3.高校、大学は何とか修了しても、その後の就労と社会適応がむずかしい。社会人となると、学生時代とは比べ物にならないほど高度で複雑な社会性やコミュニケーション能力を求められる。ときには嫌な上司や苦手な同僚、取引先ともうまくつき合っていかなければならない。これは発達障害者にとってたいへんな難題であるため、多くの場合、社会に出ると仕事や人間関係で悩みを抱えたり不適応状態となる。職業選択(キャリアガイダンス)はなぜ重要か大人の軽度の発達障害者は、社会への適応レベルや職業、年収などが千差万別で人生の満足度に大きな違いがある。社会で大活躍して尊敬を集め、高収入を得ている人もいれば、社会に適応できず40代になっても定職に就かない人もおり、その境遇にはまさに天と地ほどの差がある。この差はいったいどこからくるのであろうか? 1つには彼らがもともと抱える発達障害の程度や合併症の有無によるが、もう1つの重要な要因として、「その人にあった職業に就けたかどうか」という職業選択の問題を指摘しなければならない。社会不適応の極端な例であるひきこもりやニートは、近年の総務省統計局の「労働力調査」で約80万人いるとされている(別の調査では160万人)。ひきこもりやニートに占める発達障害者の割合は、厚生労働省の調査研究では2〜3割強であるが、約8割とする調査もあり、正確なところは不明である。筆者は現在、外来でひきこもりやニートを150人ほど診ているが、そのほとんどは発達障害であり、臨床的には後者のデータの方が実態に近いように思われる。発達障害者は自分を客観的に認知をして得手・不得手を適切に理解したり、人生の長期的な目標やビジョンを描いたりするのが苦手である。さらに社会性(ソーシャルスキル)の未熟、学業不振、基本的生活習慣(ライフスタイル)の不規則さ、感情・情緒のセルフコントロール困難、ゲーム(ネット)・ギャンブル・浪費など

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