働く広場2017年12月号
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3働く広場 2017.12うに発達障害者への社会福祉が立ち遅れている背景には、米国などと比べて児童精神科医療が大幅に(40年以上)遅れており、特に発達障害の専門医が極めて少ないという現状がある。児童思春期に適切な早期診断・治療がなされていないので、大人になってからそのツケが回ってきている訳である。発達障害はうつ病と並んで有病率が高い精神障害であるので、産業医などと連携して、彼らのために職場でのサポートシステムが確立されるのが理想であろう。また、休職した場合にも、うつ病の場合と同様の復職プログラムが構築されることも望まれる。米国では1990年に、アメリカ障害者法(ADA)が制定されたが、これは、すべての公私立の教育機関で守るべきとして1973年に制定されたリハビリテーション法504条を、15人以上の事務所にまで拡げて施行したものである。それには、学習能力や対人関係、仕事、集中力などに実質的な制限ないし制約が認められる発達障害者が、雇用主に障害について申し入れた場合、「雇用主は合理的な配慮をしなければならない」と明確に規定されている。今後は日本でも、発達障害者のための医療、社会福祉の向上とともに、一般企業でのサポート体制が構築されることが望まれる。星野仁彦 (ほしのよしひこ)1947(昭和22)年6月24日、福島県会津若松市に生まれる。医学者、精神科医。専門は児童精神医学、精神薬理学。2001(平成13)年4月より福島学院短期大学教授となり、メンタルヘルスセンターの初代所長を務める。2012年より福島学院大学副学長。現在ロマリンダクリニック心療内科医(1993年〜)、福島県立医科大学講師。学業・仕事以外のことへののめり込みとマニアックな傾向などが重なれば、ますます社会適応が困難になる。しかしその反面、彼らの特定の分野へのこだわり・興味限局傾向とひらめきを有効に活かせば、水を得た魚のように才能を開花させる可能性がある。この点でADHDやアスペルガー症候群の人などは、まさに「磨かれていない原石」といえる。このような意味で、彼らが職業を選択する前に、中学・高校の時点で親や教師などによる就労支援とキャリアガイダンスがなされることがきわめて重要である。しかし後述するように、彼らの自己認知の未熟さ、親や教師の発達障害への否認・認識不足のため、こうした支援はあまりなされていない。大人の発達障害に向かない職業と向いている職業米国などでの臨床報告や筆者の経験では、表1のような仕事・職種は、一般的に発達障害者に向いていないように思われる。一方で、一般的に発達障害者に向いているのは、協調性や対人スキルがそれほど要求されず、管理能力や臨機応変な対応もさほど必要とされない職業であろう。ひと言でいえば、彼らの興味・関心の向いた専門的技術職が適職といえる。「百芸は一芸の精くわしきに如しかず」とはまさに至言で、何でもできる器用貧乏は、1つの専門的な知識や技能を持つ人には及ばない。実際、多少偏屈な変わり者でもそうした専門能力が評価され、世の中で重用されている人はたくさんいる。筆者の経験では表2に示した職業に就いている発達障害者は成功している人が多くいるので、彼らに向いている仕事といえるのではないかと思う。筆者の臨床体験では、ADHDやアスペルガー症候群などの発達障害者は、一般の会社組織のなかでは協調性やチームプレーを発揮しにくく、適応しにくい人たちである。表2に掲げたような適職に就けた人はよいが、ほとんどの場合、彼らはあまり向いていない職業に就いている。その理由の1つは本人の自己認知(自分の能力を客観的にみる認知能力)が未熟なことであり、もう1つは前述のように親の否認・認識不足である。適職に就くためには、遅くとも中学・高校までに親が発達障害に気づいてあげて、本人に向いている技能や資格を取らせるための適切な専門学校や短大・大学に進学させることが望まれる。しかし多くの場合、これが十分になされていない。筆者は現在、クリニックで150人以上の大人の発達障害者を診療しているが、彼らが失職・転職をくり返す比率は非常に高い。一部の人は解雇やリストラの憂き目にあっているが、多くの場合「自分に合わない」と思って辞めている。そのため、経済的困難に陥ったり離婚する割合も高く、その結果、うつ病やさまざまな依存症を合併する確率も高い。発達障害者への社会福祉はどうあるべきか以上、悲観的なことばかり述べたが、このよ表1 発達障害者に向いていない職業①高度な協調性や熟練したスキルが要求される営業関係や接客関係②優れた管理能力が要求される経理、人事、総務関係③ミスが大事故に直結するような交通、運輸関係(運転手、パイロット、航空管制官など)④そのほか、複数の要求を同時にこなす必要がある仕事、不測の事態への臨機応変な対応が求められる仕事表2 発達障害者に向いている職業①専門的、マニアックな知識やひらめきが活かされる研究者、学者など②強い刺激と変化に満ちた職業として、警察官、消防士、救急救命士、新聞・雑誌などの記者、マスコミ関係、作家、ジャーナリスト、カメラマン、各種ディレクター、プロデューサーなど③視覚的な才能に長けている職業として、カメラマン、イラストレーター、スタイリスト、漫画家、画家、建築業一般(建築、設計技師、大工など)、コンピュータ・プログラマー、CGアニメーター、広告関係全般、ファッション・グラフィックなどの各種デザイナーなど④人間よりむしろ機械類や物を相手にした職業として、調理師、ピアノなどの調律師、自動車整備士、技工士、電気技師、図書館司書、校正者など※上記表1および表2は、筆者の経験に基づき作成したものである

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