【表紙2】 65歳超雇用推進助成金のご案内 (平成30年4月から制度が一部変更されています) 〜65歳超継続雇用促進コース〜 65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施する事業主のみなさまを助成します。 (雇用管理に関する措置の実施等を要件に加え、引上げ幅等に応じて支給額が変更されました。) 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、旧定年年齢(注)を上回る年齢に引上げること。 ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。  また、改定後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること。 ●1年以上継続して雇用されている60 歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること。 ●高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置※1を実施すること。 支給額 65歳への定年引上げ 66歳以上への定年引上げ 定年の廃止 66〜69歳の継続雇用への引上げ 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年数 60歳以上の被保険者数※2 5歳未満 5歳 5歳未満 5歳以上 4歳未満 4歳 5歳未満 5歳以上 1〜2人 10 15 15 20 20 5 10 10 15 3〜9人 25 100 30 120 120 15 60 20 80 10人以上 30 150 35 160 160 20 80 25 100 (単位:万円) ■1事業主あたり(企業単位)1回限り ※2 60歳以上被保険者については、当該事業主に1年以上継続して雇用されている者であって、期間の定めのない労働協約を締結する労働者または定年後に継続雇用制度により引続き雇用されている者に限ります。 (注) 就業規則等で定められていた定年年齢のうち、平成28年10月19日以降の最も高い年齢 〜高年齢者雇用環境整備支援コース〜 以下のいずれかの高年齢者の雇用環境整備の措置を実施した事業主のみなさまを助成します。 (措置の実施後、6カ月間の措置内容の使用・運用および対象被保険者の継続雇用が要件に加わりました。) 措置の内容 @機械設備、作業方法、作業環境の導入または改善による既存の職場または職務における高年齢者の雇用機会の増大 A高年齢者の雇用機会を増大するための雇用管理制度の導入または見直しおよび高年齢者に対する健康管理制度の導入 支給額 以下の@・Aのいずれか低い額を支給します。(上限1,000 万円) @措置に要した経費の60%《75%》、ただし中小企業事業主以外は45%《60%》 A措置の対象になる1 年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者1人あたり 28.5万円《36万円》  〔《 》内は生産性要件を満たす場合※ 3 〕 〜高年齢者無期雇用転換コース〜 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用に転換した事業主のみなさまを助成します。 (無期雇用転換日において、64歳以上の労働者は当コースの支給対象外となりました。) 申請の流れ @高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置※1を実施し、無期雇用転換制度を整備 A転換計画の作成、機構への計画申請 B転換の実施後6カ月間の賃金を支給 C機構への支給申請 支給額 ●対象労働者1人につき48万円 (中小企業事業主以外は38万円) ●生産性要件を満たす場合※3には対象労働者1人につき60万円 (中小企業事業主以外は48万円) ※1 高年齢者雇用管理に関する措置とは…… (a) 職業能力の開発および向上のための教育訓練の実施等 (b) 作業施設・方法の改善 (c) 健康管理、安全衛生の配慮 (d) 職域の拡大 (e) 知識、経験等を活用できる配置、処遇の改善 (f) 賃金体系の見直し (g) 勤務時間制度の弾力化 のいずれか ※3 『助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること』(生産性要件の算定対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないことが必要です)が要件です (生産性= 営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)雇用保険被保険者数 (企業の場合) ■お問合せや申請は、都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします(65頁参照)。そのほかに必要な条件、要件等もございますので、詳しくはホームページ(http://www.jeed.or.jp)をご覧ください。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.41 多様で健康な働き方の拡充とともに定年年齢を63歳に引上げ キユーピー株式会社 取締役常務執行役員 井上伸雄さん いのうえ・のぶお 1983(昭和58)年、キユーピー株式会社入社。経営企画室長、経営推進本部長などを経て、2010年より取締役に就任。2016年より常務執行役員、現在に至る。  かわいらしいシンボルマークでおなじみのマヨネーズをはじめ、さまざまな食を食卓に提供する、日本の代表的な食品メーカー、キユーピー株式会社。2016(平成28)年度より定年を63歳に引き上げたほか、再雇用後も従業員に長く活躍してもらうことを目的に、40歳からのキャリア教育を導入しています。今回は、同社の取締役常務執行役員の井上伸雄さんにご登場いただき、同社の高齢者雇用についてお話をうかがいました。 はじまりは「定年後も大好きな会社に恩返しをしたい」との声から ―貴社では2016年に定年年齢を63歳に引き上げましたが、それ以前に、2000年という早い時期から、「希望者全員を65歳まで再雇用する制度」を導入されていますね。 井上 希望者全員を対象とした高年齢者雇用確保措置が法的に義務づけられたのは2006年ですから、世間より早かったと思います。背景には、2001年からの老齢厚生年金(定額部分)の支給開始年齢の段階的引上げがありました。ですから当社だけの問題ではなく、その対応策として、定年後の再雇用制度を導入する企業は、当時でも珍しくありませんでした。しかしその時点では、まだ「希望者全員を65歳まで再雇用」という制度は少なかったようです。 ―なぜ他社に先駆けて、希望者全員の再雇用制度を導入されたのですか。 井上 定年を迎える社員たちから、「長く働いてきた大好きな会社に定年後も恩返しをしたい」という声が多く寄せられていました。そういう風土が当社にある背景には、「社是(しゃぜ)社訓」が影響していると思います。創始者・中島(なかしま)董一郎(とういちろう)の長年にわたる経験と苦労のなかでつちかわれた「楽業偕悦(らくぎょうかいえつ)」という言葉には、「会社はこうありたい」という強い想いが凝縮されています。志を同じくする人と「業(仕事)を楽しみ悦(よろこ)びをともにする」、そこに仕事本来のやりがいがあるというメッセージが込められています。私たちは創業からまもなく100年となりますが、この創始者の言葉を胸に刻み、力を合わせてきました。  当社は、日本で初めてマヨネーズやドレッシングなどを世に送り出したパイオニア精神を基本に、商品開発や事業分野の拡大、海外展開を進めてきました。「業(仕事)を楽しみ悦びをともにする」という社風のなかで、会社とともに成長してきた社員たちからの想いに応(こた)え、定年後も何らかの形で会社に貢献できる機会をつくりたい。それが最初の再雇用制度を導入した経緯です。 ―2013年には、その再雇用制度のリニューアルも行っていますね。 井上 当初導入した再雇用制度は、定年後も働きたいと希望する社員たちに、働く場を提供するためのもので、業務内容も現役社員の補助的なものが多く、賃金も一律の時給制でした。  それを2013年に改め、「シニア社員制度」としました。定年を迎えるベテランが増え、定年後も、その人たちの豊かな業務経験、知識、ネットワークを引き続き活かせる役割をになっていただくことが、会社にとっても本人にとっても望ましい時代になってきていました。具体的には、になう役割の大きさに応じた4段階のグレードを設け、それまでの時給より大きく水準を引き上げた月給制とし、目標管理を行い、賞与も支給することとしました。一方で、働き方はフルタイム勤務と週3日勤務のどちらかを選択できるようにしています。 ―「シニア社員制度」を2年間実施した後に、定年を63歳に引き上げたのですね。 井上 「シニア社員制度」では、60歳で職務の再マッチングを行ったうえで、新たな役割のグレードに応じて待遇を決めます。60歳以前とは一線を引く形ですから、「一度終わった人」という受け止めになってしまうのです。これは本人の意識だけでなく、周りもそう見てしまう。そこで、60歳以降も引き続き正社員として就労する定年延長を行ったわけです。 ―65歳ではなく63歳としたのは? 井上 一気に定年を5年も先に延ばすのは少し性急ではないかと……。徐々になじんでいく時間が必要だと考えました。いずれ厚生年金の全額支給は65歳が開始となるので、将来は65歳定年にする可能性もあります。  他方、「シニア社員制度」も残し、本人の希望で選べるようにしました。63歳までフルに働いてリタイアする、63歳以降65歳まで「シニア社員」としてフルタイム勤務または週3日勤務のいずれかを選ぶほか、旧定年の60歳で退職する、60歳から「シニア社員」としてフルタイム勤務または週3日勤務のいずれかを選ぶといったように、働き方の選択肢を増やしました。 定年延長後の多様な働き方の選択肢を用意 ―63歳定年制の導入にともない、60歳以降の職務や待遇はどのように設計されましたか。 井上 60歳前のいわゆる管理職クラスの等級では、組織と人の管理を担当するマネジャー職と、それ以外のエキスパート職に大別されていますが、60歳以降は全員がエキスパート職になります。また、等級にリンクする賃金テーブルが60歳以降は別建てとなり、賞与の算定方法も少し変わりますが、それ以外の待遇、例えば福利厚生は変わりませんし、転居をともなう転勤もありえます。57歳から60歳の間に申請し、会社が認めれば、それ以降の転勤は行わない「最終勤務地限定制度」もあります。 ―定年が3年延びたことで、社員が自らキャリアプランを見直すことも必要になりますね。それに向けた社員の動機づけや意識改革にはどう取り組んでいるのでしょうか。 井上 かねてより50歳と55歳の全社員を対象にライフプラン研修を行っています。取り上げるテーマは、「キャリアプラン」、「ライフプラン」、「マネープラン」で、対象年齢によりウェイトの濃淡は変えていましたが、どちらも退職準備のための教育の色彩が濃いものでした。この研修のうち、特に50歳時に行う研修は「キャリアプラン」に重点を置いた構成に改め、50代から63歳までの活躍に向けて意識を高めるねらいを持たせました。  また、新たに「キャリア研修40」という名称で、40歳を対象としたキャリア研修をスタートさせました。当社およびグループは、調味料、タマゴ、サラダ・惣菜、加工食品、ファインケミカル、物流システムといった事業を幅広く手がけており、拠点も国内外問わず数多くあります。40歳という年齢ポイントは、入社後にこれらの事業や拠点をいくつか経験し、その後自分が歩んでいく事業領域や職能分野がおおよそ定まってくる時期にあたります。「キャリア研修40」では、この時期をとらえ、これまでのキャリアを棚卸しし、自分の強みを発見し、これから何をどう磨いていったらよいかを考えるプログラムとしています。63歳定年をゴールとすると、40歳はほぼその中間地点です。この節目で研修に参加することを通じ、日々の仕事を追いかける状態から一時的に距離を置き、長期的な視野に立ったキャリアビジョンに思いを巡らせることは意義深いと思います。  また、59歳社員を対象に、63歳定年までを見すえた動機づけを目的に、「セカンドキャリア研修」を昨年から始めています。 キャリア研修での動機づけ健康増進に資する働き方改革も ―定年は将来、さらに65歳まで延びるかもしれませんね。世の中では早くも70歳定年などという声もちらほら出始めています。高齢になっても活躍するための条件とは何でしょうか。 井上 食品メーカーで最も大切な品質保証の仕事を例にとると、いかに技術が高度化し、検査装置が発達しようとも、ディスプレイに表示されるデータだけに頼っていては、品質は完全には守れません。マニュアルを遵守し、検査値が異常でなくても、「あれ? この感じ、いつもと違うな」と気づけるセンスや、問題が起きた直後に適切な初動がとれる能力が大事で、それにはやはり経験値が重要な要素になります。私たちは「品質は心」とか「品質は人」と称していますが、ベテラン社員にはそうした心を後輩にしっかり伝える役割をになってほしいですね。  なお、長く働き続けるには、なんといっても健康がすべての基本になります。「食と健康に貢献する」企業だけに、社員の健康づくりには力を入れています。「働き方改革チャレンジ活動」と名づけた取組みの例をあげると、残業を削減できたら、その賃金の原資を全社員に還元するほか、オフィスの消灯を原則18時30分にしています。在宅勤務やマルチ勤務(配属されたオフィス以外のどこの拠点でも執務可能な仕組み)なども始めました。また、全社員が健康増進に関する個人目標をカードに書き、ロッカーなど目につくところに貼っています。若いうちから健康的な生活習慣を継続し、会社がそれをサポートすることも、生涯現役社会を実現するための重要な要素だと思います。 (聞き手・文/鍋田周一 撮影/福田栄夫) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2018 September ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年大阪府堺市生まれ。1970年多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 高齢労働者の安全・健康確保に向けて 7 総論 高齢労働者の安全と健康確保のための職場づくりとは 株式会社健康企業 代表・医師 亀田 高志 12 解説 「エイジアクション100」による職場環境改善 中央労働災害防止協会 教育推進部審議役 下村 直樹 17 レポート 高年齢労働者が安心して働ける職場の実現へ 中央労働災害防止協会が「高年齢労働者の安全と健康確保のための職場改善セミナー」を開催 19 企業事例@ 独自の運動能力テストと毎日の体操で作業を安全に行う「安全体力R」を増進 JFEスチール株式会社西日本製鉄所(倉敷地区) 23 企業事例A 人力で抱え上げないノーリフト介助を導入 だれもが無理なく働ける環境づくりを行う 社会福祉法人伸こう福祉会 27 企業事例B 中高年層の意識と行動を変えるため 「転倒災害防止研修」をスタート 山崎製パン株式会社 1 リーダーズトーク No.41 キユーピー株式会社 取締役常務執行役員 井上伸雄さん 多様で健康な働き方の拡充とともに定年年齢を63歳に引上げ 30 江戸から東京へ 第72回 老いても初心を大切にする 中村の長兵衛 作家 童門冬二 32 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第53回 一般社団法人 日本洗車技術指導協会 洗車スタッフ 貞方義博さん(70歳) 34 高齢者の現場 北から、南から 第76回 奈良県 有限会社近藤豆腐店 38 ケーススタディ 安全で健康に働ける職場づくり[第17回] 42 知っておきたい労働法Q&A《第5回》 正社員と有期雇用労働者の賃金の相違 家永 勲 46 高齢社員との「ギャップを埋める」 「相手に伝わる」コミュニケーション[第5回] 竹内義晴 48 日本史にみる長寿食 vol.300 ナスで老化抑制効果 永山久夫 49 特別企画 働き方改革関連法が成立 厚生労働省 労働基準局、雇用環境・均等局、職業安定局 53 お知らせ 高年齢者雇用開発フォーラムのご案内 平成30年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 地域ワークショップのご案内 57 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.292 創意工夫の手づくり椅子、将来性は十分な仕事 椅子張り職人 種沢邦勝さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第16回] ダブレット(言葉の変化) 篠原菊紀 【P6-11】 特集 高齢労働者の安全・健康確保に向けて  高齢者雇用を推進するうえで、避けては通れないのが高齢労働者の安全・健康の問題です。個人差はあれど、加齢にともない身体機能は低下し、労働災害の発生や重篤(じゅうとく)化のリスクを高めます。そこで重要になるのが、安心・安全な職場環境の整備や、労働災害を防止するための高齢労働者自身の健康・体力づくりです。今回は、中央労働災害防止協会が策定した、高齢労働者の安全・健康確保のためのチェックリスト「エイジアクション100」を解説するほか、高齢労働者の安全・健康確保に取り組む企業事例をお届けします。 総論 高齢労働者の安全と健康確保のための職場づくりとは 株式会社健康企業 代表・医師 亀田 高志 はじめに  長年にわたる少子高齢化により、日本の人口と働く人が減少しています。その結果、より高齢の従業員に働いてもらおうとする職場が増え、高齢者の活用が進んでいます。  加齢はだれしも経験することであり、皮膚のしわ、毛髪の減少や体型の変化、老眼などにより「もう歳で……」と日常的に触れられる話題です。  ところが、加齢にともなう安全・健康管理上の課題は看過できないほど大きいにもかかわらず、職場で実例が発生しないかぎり、あまり意識されない傾向があります。  本稿では「総論」として、加齢による心身機能の低下に触れたうえで、高齢労働者が安全で健康に働くための職場づくりのポイントを、具体的な事例を示しつつ解説したいと思います。 職場で発生した具体的な事例  ある職場で起きた、高齢労働者による事例をご紹介します。 某事業所における労働災害事例  ある事業所で62歳の女性従業員の休業災害が発生。階段をふみ外し、転落しました。左足の骨折で手術することになり、復帰の目処(めど)が立っていません。  足の裏を下に押す力を屈曲(くっきょく)や底屈(ていくつ)といいますが、女性は男性よりその力が弱くなりやすいのです。このケースでは、階段を昇る際つま先を階段からふみ外してしまい、左手で手すりをつかもうとしたものの、片腕だけでは体重を支えきれず、8段ほど転落したとのことです。  この事例を医学的に評価すると、加齢による次の機能低下が関係しています。 ・下肢の筋力 ・反応速度 ・(左)肩の柔軟性 ・(左手の)握力 加齢にともなう心身の機能低下  人体の生理的なピークが20歳から30歳前後であることは、読者の方の経験や、プロスポーツ選手やアスリートの様子からも理解できることでしょう。職場での業務遂行に影響する心身の機能は、若年層と比較すると確実に低下することがわかっています(図表1)。  これらに加え、加齢により各臓器の機能も低下し、業務負担や疲労の自覚に大きく影響し、ヒューマンエラーからミスにつながることもあります。また、飲酒などの日常的な生活習慣の影響も大きくなります。  これらの機能低下が50歳、60歳と年齢を重ねることで確実に起きてくることを想定し、高齢労働を意識した労働安全衛生管理対策を講じることが重要です。  働き方改革のなかでも、高齢労働者の活用のためには、女性の活躍も含まれます。そのため、心身の機能低下や業務遂行上の課題に男女差があることにも、考慮が必要です。 高齢労働にともなう労働災害  さらに、仕事に慣れている人であっても、次のような労働災害や安全管理上の問題につながることもあり、注意が必要です。 某事業所の総務部長のお話  「ベテラン社員が慣れた工場で転んでケガをするとは思いませんでした。彼は現場ラインの責任者を定年まで勤め、継続雇用後3年目。夜勤中だったのですが、休憩場所から工場内に入った直後にクレーンが通り、よけようとして、足元の段差に躓(つまず)いて、転倒しました。クレーンが通るときにはサイレンでわかるはずなのですが……。手をついた拍子に右手首の骨を折り、顎(あご)も切って出血も多く、私が事務所で残業していたので夜間救急に連れて行きました。膝(ひざ)の皿も打撲しており、医者は『こちらも折れなくてよかった』と……」  この事例も医学的に評価すると、図表1の機能低下が関係している可能性があります。 ・視力(中・近距離視力、遠近調節力、低い照度での視力、明暗順応) ・聴力(可聴域・周波数) ・平衡機能 ・下肢筋力、背筋力 ・敏捷(びんしょう)性、動作速度、反応時間 高齢労働者による労働災害の発生状況  このようなケースが頻発している実態を厚生労働省および総務省によるデータから確認してみましょう。 @死亡災害の半数以上を50歳以上が占める  2016(平成28)年の死亡災害928件のうち、50代が224件、60歳以上が293件と、合計で56%を占めています。 A死傷災害の約半数を50歳以上が占める  休業4日以上の死傷災害は2016年に11万7910件もありましたが、このうち、50代は2万7603件(23%)、60代は2万8605件(24%)と、合計で48%を占めています。 B年千人率は高齢労働者では減少していない  これらの死亡災害や死傷災害の実数の把握も現場の防止対策では重要ですが、母数となる同年代の労働者数の違いを考慮して、その発生率を比較する必要もあります。それには、労働者1000人あたり1年間に発生する死傷者数を示す「年千人率」で確認できます。  2016年のデータでは20代、30代、40代が各々1・56、1・55、1・81ですが、50代になると2・43、60歳以上では3・07と高くなっています(13頁図表1参照)。さらに1999年、2009年、2016年の推移では、すべての年代で減少傾向であるのに、唯一60歳以上は2009年から16年で微増となっています。 C事故型別では「転倒」、「墜落」、「転落」が多い  2016年のデータでは、死亡災害件数でも死傷災害件数でも、50歳を境にこの三つの事故型が増えていることがわかっています。この傾向は年千人率をみても同様です。 Dそのほかの傾向  50歳以上の被災者の経験年数をみると、5年未満が多いものの、50歳未満と比べると「経験年数が長いほど労働災害を起こしにくい」という傾向は小さくなります。  また、年代別の休業見込み期間は、高齢になるほど長くなっています。 ※以上の参照データは、厚生労働省「平成28年度労働災害統計」、総務省「労働力調査」から引用・算出しています。 高齢労働者の安全・健康管理対策のポイント  このような高齢労働者の安全管理や健康管理における問題に対して、どのような対策を行うことができるのか考えてみましょう。 @高齢労働者に対する取組みの偏(かたよ)り  まず、現実には、2016年の労働安全衛生調査(実態調査)でも、高齢労働者の労働災害防止対策に取り組んでいる事業所は55・7%しかありません。また、その取組み内容と状況は図表2の通りです。  これをみると、労働時間管理や作業前の健康状態のチェック、健康診断の結果に基づく相談・指導や必要な措置などは、比較的行われている一方で、後述する作業環境管理や作業管理にあたる施設・設備面の変更、危険な場所での業務への従事を避けるなどの措置は、あまり実施されていないことがわかります。  心身機能の低下にともなう影響を前述しましたが、体力測定によるリスク評価や身体機能低下への対策は、ほとんど行われていません。 A高齢労働者の活用の目的と目標を確認する  社会保障制度の変容もあって、60歳以降の継続雇用が自然な流れになりつつあります。しかし職場で、高齢労働者にどのような貢献を求めていくのかが曖昧(あいまい)になっていないでしょうか。  各職場の事業展開のために人的資源管理として、高齢労働者を有益に活用する目標を設け、できれば経営トップなどの同意を得て、次に説明する方針表明を行うことが望ましいと考えます。 B高齢労働者の安全・健康確保対策の方針を示す  厚生労働省が5カ年計画を示した第13次労働災害防止計画でも、高齢労働者の労働災害防止が強調されています。  これまで説明したように加齢現象の個人差は大きく、作業に必要な身体機能には性差もあります。それらを各事業所で課題として認め、可能なかぎり対策を行うという方針を表明する必要があります。  労働安全衛生法は事業者の責任を規定していますが、そのことと対策の実態には乖離(かいり)のあることがしばしばです。例えば「安全第一」と工場内に大きく掲げながら、施設面の安全対策の費用負担をトップが認めないようなケースです。  高齢労働者を活用する以上、心身の機能低下にともなう安全衛生上の課題は明らかですから、対策のための方針を表明することは重要です。 C労働衛生の5管理を応用して考える  業務にともなう健康障害を防ぐ労働衛生対策には、従来から「5管理」と呼ばれる考え方があります。まず、対策を行う安全衛生管理体制を整備しなければなりませんが、これを「総括管理」と呼びます。方針の表明を行う事業所トップの指示のもと、関係する安全管理者、衛生管理者、産業医の選任、法律で定められた安全衛生委員会の設置と開催がこれにあたります。  次に、危険や有害な作業環境などを改善する「作業環境管理」を、そしてそれでも防ぐことがむずかしい危険や有害な要因を最小にする作業の調整や工夫をする「作業管理」を行います。  さらに、管理監督者と作業を行う従業員は、自律的に危険や有害な点を学ぶことができません。その点は「労働(安全)衛生教育」を行い、健康障害を招く危険や有害作業などを学んでもらい、対策を実行する手法と重要性を伝えます。  これらに「健康管理」を加えて、5管理と呼んでいます。高齢労働者に対する対策を進めるには、この5管理の枠組みをフルに活用して安全衛生上の問題を最小にしていく努力が必要です。 D健康管理を充実させる  さて、加齢現象によって病気の発生も当然ながら増加します。脳・心臓疾患といった動脈硬化による病気だけでなく、がんやうつ病などのメンタルヘルス不調も加齢にともなって増加します。したがって、図表3のような対策を継続して行っていく必要があります。  これらはいずれも労働安全衛生法令・指針に定めがあり、一般定期健康診断やストレスチェックを行い、所轄の労働基準監督署に実施報告を提出すれば、十分対応したといった感覚になりがちです。しかし、高齢労働者が現場の作業に従事しても問題がないか、産業医など医師の意見に基づいて判断することは、非常に重要です。  また、例えば60歳から70歳の10年間に、男性は約15%の方が新たに「がん」と診断されるといわれています。「がん」などの重い病気に罹(かか)った場合に就労を維持することを目ざし、再発防止のための治療を続けながら仕事を継続させる「治療と仕事の両立支援」も、重要な施策となります。さらに、50歳以降は親の介護をになう労働者も増え、心身の負担が懸念されます。この場合も同様の支援が必要になるでしょう。  さらに、作業効率だけでなく、労働災害防止のために、身体機能の維持を目ざして、高齢労働者に対して体力測定を行い、その結果に基づいて、運動を習慣化する支援を行うといった取組みも必須となってきます。 E安全管理の充実  危険な作業への対応策として、労働衛生の5管理のように、作業環境管理、作業管理、健康管理の順で優先順位をつける考え方を参考にできます。例えば、自動化により有害な作業を行わなくて済むのであれば、それがベストであるからです。  まずは、危険な作業をなくすよう、自動化を行うなどの措置を優先的に行うことが必要です。それがむずかしい場合には、その危険要因から距離を保つように柵を設けたり、従業員がそばにいる場合には機器が自動停止するように作業場をデザインすることで対応しましょう。  このように考える理由は、人は必ずミスをしますし、機器も故障することがあり得るため、どのような対策を行っても絶対安全ということはないからです。このことを念頭におき、段階をふみながら、高齢労働者の安全対策を進めていくことが重要です。 FPDCAサイクルで継続的な改善  今年の労働安全衛生対策の一つのトピックに、労働安全衛生マネジメントシステムのISO化があります。ISO規格は海外との商取引で重視される傾向があり、生産管理や環境管理では、すでに標準的といってもよいくらいです。  この労働安全衛生マネジメントシステムのポイントは、危険さや有害さを定量的に評価して、優先順位付けを行うリスクアセスメントを実施し、年度ごとの課題を抽出し、それに対して、計画的に対策を行うこと。そのうえで、実績を評価し、継続的に改善を行うことです。  高齢労働はさらに広がっていくことが予想されます。リスクアセスメントの対象として高齢労働を取り上げ、対策を行い継続して改善していく枠組みも今後の参考にできます。 終わりに  職場で高齢労働者が持つ知識や技能・経験を活かして働いてもらうためには、ここにあげたような適切な作業環境管理、作業管理、高齢労働者の心身機能に配慮した健康管理などが欠かせません。総務省による「労働力調査」では、2017年の高齢労働者数は、60〜64歳が521万人、65歳以上では807万人となり、約30年で倍増しています。また、就業者全体に対する割合でも50歳以上で約40%、60歳以上でも20%を超えるほどになっています。  高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査では、高齢者の働きぶりに関する評価は良好である一方で、本人の健康状態に懸念があることが課題としてあげられています。  本稿で取り上げた問題は今後、どの職場でも起きる可能性があり、12頁以降で取り上げている「エイジアクション100」などのツールを活用し、実践例を参考にしながら職場の安全・健康確保対策を進めていただければ幸いです。 参照および謝辞  本稿では、平成29年度の中央労働災害防止協会による「高年齢者の安全と健康確保のための配慮事項に関する委員会」報告書を参照しました。また、一般財団法人日本予防医学協会理事長、産業医科大学名誉教授の神代雅晴先生にご指導賜りましたこと、深く感謝申し上げます。 図表1 加齢で低下する機能と作業上の問題 1 生理的な機能 @感覚機能 視力=よく見えないという問題  1.中・近距離視力(近いところの視力)  2.遠近調節力(焦点を変える力)  3.対比視力(コントラストを見分ける力)  4.低い照度での視力  5.明るさの変化に対応する明暗順応 聴力=聞き取れないという問題  1.可聴域(近くないと聞き取れない)  2.周波数(高い音が聞き取れない)  3.その他(聞き間違い) その他、触覚など A平衡機能(バランス能力)=バランスが悪くなるという問題 B筋力=下肢、背筋の筋力低下が起きる C敏捷性や動作速度、反応時間=遅くなる D柔軟性=硬くなる E全身持久性・回復力=悪くなる F体温調節機能=暑熱作業に弱くなる 2 精神的な機能 @短期記憶または作動記憶=作業中に別の指示が入ると直前の仕事を思い出せない A展望記憶=将来の約束や予定を忘れる B流動性知能=新しいことを覚えにくい 3 個人差が大きい=一律の対策とはいかない @ 45歳時点;39〜51歳(12年分) A 55歳;48〜62歳(14年分) B 65歳;57〜73歳(16年分) 図表2 高年齢労働者(50 歳以上)に対する労働災害防止対策の現状 高年齢労働者の労働災害防止対策に取り組んでいる事業所計 55.7(%) 取組内容(複数回答) 時間外労働の制限、所定労働時間の短縮等を行っている 38.0 深夜業の回数の減少又は昼間勤務への変更を行っている12.8 定期的に体力測定を実施し、その結果から、本人自身の転倒、墜落・転落等の労働災害リスクを判定し、加齢に伴う身体的変化を本人に認識させている 5.2 高年齢労働者の身体機能の低下の防止のための活動を実施している(作業前の準備体操や定期的なウォ―キングなど) 6.3 医師による面接指導等の健康管理を重点的に行っている 5.5 作業前に、体調不良等の異常がないか確認している41.6 健康診断実施後に基礎疾患に関する相談・指導を行っている25.1 健康診断実施後に健康診断の結果を踏まえて就業上の措置を行っている31.9 墜落・転落、転倒等の災害防止のため、手すり、滑り止め、照明、標識等の設置、段差の解消等を実施している(本人の危険を回避するために、施設・設備等の労働環境などを変更する対応) 11.2 できるだけ高所等の危険場所での作業に従事させないようにしている(本人の危険を回避するために、作業内容・就業場所を変更する対応) 21.6 できるだけ単独作業にならないようにしている(体調異変があったときにすぐに対応できるための措置) 21.2 他の労働者に危険を及ぼすおそれのある作業に従事させないようにしている(クレーンやフォークリフトの運転等をさせない等の対応) 12.0 その他 8.2 出典:厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査)」(2016年) 図表3 高齢労働者に対して強化する 健康管理 1. 就業区分や医師の面接指導の結果に基づく就業上の措置の検討と必要な場合の実行   a.一般定期健康診断後   b.ストレスチェック後   c.過重労働で疲労の蓄積が著しい場合 2.生活習慣病対策   a.定期健康診断後の保健指導の実施   b.精密検査・通院治療の指導・フォロー 3.がん、脳・心臓疾患などになった場合の治療と仕事の両立支援 4.腰痛症のような場合の健康相談 5.がんなどの検診の充実 6.体力測定と身体機能の改善   運動指導等の健康増進活動の充実 【P12-16】 解説 「エイジアクション100」による職場環境改善 中央労働災害防止協会 教育推進部審議役 下村 直樹 はじめに  日本は、健康寿命が世界一の「人生100年時代」ともいわれる長寿社会を迎えており、増加する高年齢労働者がその知識と経験を活かして積極的に活躍できる「生涯現役社会」の実現が求められる時代になっています。  このようななかで、50歳以上の労働者の労働災害の発生数は全体の約半数を占め、発生率も若年者に比べて高くなっており、高年齢労働者の労働災害防止が喫緊の課題となっています。また、厚生労働省の調査によると、高年齢労働者の労働災害防止対策に取り組んでいる事業所は五割強にとどまっています(図表1・2)。  また、高年齢労働者の労働災害の発生には、加齢にともなう身体・精神機能の低下が影響を与えている場合もあることから、この視点をふまえた労働災害発生リスクを低減するための対策がポイントとなります。  このような状況をふまえて、高年齢労働者の安全と健康確保のための職場改善ツール「エイジアクション100」を開発しました。 「エイジアクション100」の構成  「エイジアクション100」は、以下の6項目を中心に構成されています。 (1)「高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト」(図表3)  高年齢労働者の安全と健康確保のための取組み(エイジアクション)として、100の取組みを推奨しており、これらを盛り込んだチェックリストを活用して、現在の取組み状況のチェックを行うことにより、職場の課題を洗い出すことができるように設定しています。  例えば、高年齢労働者にもっとも多い労働災害である「転倒災害」(高年齢労働者の労働災害の約3割を占める)については、「通路の十分な幅を確保し、整理・整頓により通路、階段、出入口には物を放置せず、足元の電気配線やケーブルはまとめている(6番)」、「階段には手すりを設けるほか、通路の段差を解消し、滑りやすい箇所にはすべり止めを設ける等の設備改善を行っている(9番)」などの8項目を盛り込んでいます。  また、推奨する100の取組みとしては、高年齢労働者を対象とした取組みに加えて、高齢期を健康で安全に働けるようにするための若年時からの準備(エイジマネジメント)の取組みも含まれており、新しい視点を盛り込んでいるのも特色の一つです。  例えば、年齢を重ねると、同じように転倒した場合でも、骨折をともなって重症化しやすく、休業日数も長くなる傾向がみられます。特に女性の場合は、閉経後は、骨密度が低くなり骨折しやすくなるといわれています。このため、高齢期の骨粗しょう症の予防対策として、「若年時から、更年期以降の骨粗しょう症についての健康教育を行うとともに、極端なダイエットの防止等の食事指導や運動習慣づくりの支援を行っている(98番)」などの項目も盛り込んでいます。 (2)「高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト」の解説  チェックリストの解説では、加齢にともなう身体・精神機能の低下による労働災害の発生リスクを低減するための対策、高年齢労働者が働きやすい職場環境の整備や働き方の見直しのポイントなどを解説しています。  例えば、「転倒災害」については、その発生率は、50歳以上は50歳未満と比べて3・5倍、60歳以上では4・3倍となっており、加齢にともなう@バランス能力の低下、A筋力(特に下肢)の低下、B俊敏性の低下、C視認性の低下、などの影響がみられます。このため、@4S(整理・整頓・清掃・清潔)の徹底、A手すりの設置、通路にある段差の解消、すべりやすい箇所へのすべり止めの設置などの設備の改善、B耐滑性があり、つまずきにくい作業靴の着用など複数の転倒防止対策を推奨しています。 (3)「高年齢労働者の労働災害の発生状況」の参考資料  高年齢労働者には、どのような労働災害が多いのかなどの実際の労働災害の発生状況の現状をふまえた検討を行うことが必要であることから、「高年齢労働者の労働災害の発生状況」の解説を行っており、職場改善の検討を行うにあたり活用できるよう参考となるデータを紹介しています。  例えば、「転倒災害」については、加齢にともなって急激に増加することを念頭に対策を検討することが必要になるため、高年齢労働者の労働災害の事故型別の発生件数・発生率などの具体的なデータを紹介しています。 (4)「加齢による身体・精神機能の状況」の参考資料  加齢による、身体・精神機能の低下が、労働災害の発生リスクにどのように影響を与えているのか、という視点を持って検討を進めることがポイントとなります。そのため、職場改善の検討にあたり活用できるよう「加齢による身体・精神機能の状況」について解説をしています。  例えば、20代前半と50代後半との身体・精神機能の状況を比較したグラフをはじめ、筋力や敏捷性、反応速度といった身体能力、視力や聴力といった感覚機能などの加齢にともなう変化を示すデータなどを紹介しています。 (5)「高年齢労働者の安全と健康確保のための職場改善計画」  チェックリストを活用して、現在の取組み状況のチェックをしたうえで、職場改善に向けての検討を簡易に行えるよう、職場改善計画の様式を盛り込んでいます。 (6)「高年齢労働者の安全と健康確保に役立つパンフレット等のリスト」(図表4)  今後の職場改善に向けた検討を行う際の、標準的な取組み手法は、国の指針やパンフレットなどですでに示されているので、それらのパンフレットのリストを参考のため付しています。  例えば、「転倒災害」については、国などにおいて「STOP!転倒災害プロジェクト」が現在推進されているところであり、対策のポイントなどが掲載された「STOP!転倒災害プロジェクト」の特設サイトやリーフレットを紹介しています。 「エイジアクション100」の活用に向けて  「エイジアクション100」を活用した職場改善は、主として、@事業所単位で、A安全(衛生)管理者(推進者)などが、B安全衛生委員会などで検討を行い、職場改善を進めていくことを想定しています。具体的な、「エイジアクション100」を活用した職場改善の流れは、図表5の通りです。  また、中央労働災害防止協会では、ホームページ上に「エイジアクション100」の特設サイトを設けており、「エイジアクション100」をダウンロードして自由に使えるようにしているほか、実際の活用事例などの参考情報を掲載しています。  具体的には、特設サイトに「チェックリスト」(図表3)や「職場改善計画」のエクセルシートを掲載しており、企業において実際にご活用いただく際には、チェックの結果を書き込んだり、必要に応じて、自由にカスタマイズできるようにしています。  さらに、「高年齢労働者の安全と健康確保に役立つパンフレット等のリスト」についても、特設サイトに掲載しており、各パンフレットなどのアドレスをクリックすると、そのパンフレットが表示されるなど、利用しやすいつくりにしています。  最後に、高年齢労働者は、今後も増加が見込まれることから、多くの企業のみなさまに「エイジアクション100」を積極的にご活用いただくことにより、高年齢労働者の労働災害の防止、働きやすい職場環境の整備や働き方の見直しにつなげていただくことを期待しています。 図表1 年齢別の年千人率(2016 年) 3.50 3.00 2.50 2.00 1.50 1.00 0.50 0.00 19歳以下 20代 30代 40代 50代 60歳以上 2.69 1.56 1.55 1.81 2.43 3.07 50歳未満 50歳以上 全年齢 1.69 2.72 2.06 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」、総務省「労働力調査」 (注)年千人率とは、労働者1,000 人当たり1年間に発生する死傷者数 年千人率=1年間の死傷者数(a)/1年間の平均労働者数(b)×1,000 (a)は「労働者死傷病報告」、(b)は「労働力調査」の「雇用者数」(役員を含む)の数値を基に算出 図表2 企業における高年齢労働者(50歳以上)の労働災害防止対策の取組状況 (単位 %) 取組内容(複数回答) 取り組んでいる 55.7(100.0) 時間外労働の制限、所定労働時間の短縮等を行っている (38.0) 深夜業の回数の減少又は昼間勤務への変更を行っている (12.8) 定期的に体力測定を実施し、その結果から、本人自身の転倒、墜落・転落等の労働災害リスクを判定し、加齢に伴う身体的変化を本人に認識させている (5.2) 高年齢労働者の身体機能の低下の防止のための活動を実施している(作業前の準備体操や定期的なウォーキングなど) (6.3) 医師による面接指導等の健康管理を重点的に行っている (5.5) 作業前に、体調不良等の異常がないか確認している (41.6) 健康診断実施後に基礎疾患に関する相談・指導を行っている (25.1) 健康診断実施後に健康診断の結果を踏まえて就業上の措置を行っている (31.9) 墜落・転落、転倒等の災害防止のため、手すり、滑り止め、照明、標識等の設置、段差の解消等を実施している(本人の危険を回避するために、施設・設備等の労働環境などを変更する対応) (11.2) できるだけ高所等の危険場所での作業に従事させないようにしている(本人の危険を回避するために、作業内容・就業場所を変更する対応) (21.6) できるだけ単独作業にならないようにしている(体調異変があったときにすぐに対応できるための措置) (21.2) 他の労働者に危険を及ぼさないように配慮している(クレーンやフォークリフトの運転等をさせない等の対応) その他 (8.2) 取り組んでいない 40.4 不明 3.9 出典:厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査)」(2016 年) 図表3 高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト(抄) 番号 チェック項目(100の「エイジアクション」) 結果 優先度 1 高年齢労働者の戦力としての活用 1 高年齢労働者のこれまでの知識と経験を活かして、戦力として活用している。 2 高年齢労働者の安全衛生の総括管理 (1)基本方針の表明 2 高年齢労働者の対策も盛り込んで、安全衛生対策の基本方針の表明を行っている。 (2)高年齢労働者の安全衛生対策の推進体制の整備等 3 高年齢労働者の対策も盛り込んで、安全衛生対策を推進する計画を策定している。 4 加齢に伴う身体・精神機能の低下による労働災害発生リスクに対応する観点から、高年齢労働者の安全衛生対策の検討を行っている。 5 高年齢労働者による労働災害の発生リスクがあると考える場合に、相談しやすい体制を整備し、必要に応じて、作業内容や作業方法の変更、作業時間の短縮等を行っている。 3 高年齢労働者に多発する労働災害の防止のための対策 (1)転倒防止 @ つまずき、踏み外し、滑りの防止措置 6 通路の十分な幅を確保し、整理・整頓により通路、階段、出入口には物を放置せず、足元の電気配線やケーブルはまとめている。 7 床面の水たまり、氷、油、粉類等は放置せず、その都度取り除いている。 8 階段・通路の移動が安全にできるように十分な明るさ(照度)を確保している。 9 階段には手すりを設けるほか、通路の段差を解消し、滑りやすい箇所にはすべり止めを設ける等の設備改善を行っている。 10 通路の段差を解消できない箇所や滑りやすい箇所が残る場合は、表示等により注意喚起を行っている。 A 安全な作業靴の着用 11 作業現場の環境に合った耐滑性があり、つまずきにくい作業靴を着用させている。 B 歩行時の禁止事項 12 書類や携帯電話を見ながらの「ながら歩き」、ポケットに手を入れた「ポケットハンド」での歩行や「廊下を走ること」は禁止している。 C 危険マップ等の作成・周知 13 ヒヤリ・ハット情報を活用して、転倒しやすい箇所の危険マップ等を作成して周知している。 (2)墜落・転落防止 @ 高所作業の回避 14 高所作業をできる限り避け、地上での作業に代えている。 A 作業床・手すり等の設置 15 高所で作業をさせる場合には、安全に作業を行うことができる広さの作業床を設けて、その端や開口部等には、バランスを崩しても安全な高さの囲い、手すり、覆い等を設けている。 B 保護具の使用 16 高所で作業をさせる場合には、ヘルメット(「飛来・落下物用」と「墜落時保護用」の規格をともに満たすもの。以下同じ。)を着用させた上で、安全帯を使用させている。 (注1)「結果」欄の記入方法は、以下のとおりです     ・「○」:取組を既に行っており、現行のままでよい ・「×」:取組を行っていない、又は行っているが、さらに改善が必要     ・「−」:対象業務なし、又は検討の必要なし (注2)「優先度」欄は、優先して改善の取組を行う必要があると考える項目にチェックを入れます (注3)100項目のチェックリストのうち、1〜16番を抜粋したもの 出典:中央労働災害防止協会「エイジアクション100」 図表4 高年齢労働者の安全と健康確保に役立つパンフレット等のリスト(抄) 名称 機関名 URL 1 高年齢労働者の戦力としての活用 65歳超雇用推進マニュアル〜高齢者の戦力化のすすめ〜 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 http://www.jeed.or.jp/elderly/data/q2k4vk000000tf3f-att/q2k4vk000000tf5r.pdf 65歳超雇用推進マニュアル〜高齢者の戦力化のすすめ〜(その2) 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 http://www.jeed.or.jp/elderly/data/q2k4vk000000tf3f-att/q2k4vk000001c9rh.pdf 65歳希望者全員雇用時代 高齢従業員戦力化に向けて−「『企業における高齢者雇用の推進』に係る検討委員会」報告書− 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 https://www.jeed.or.jp/elderly/data/pamphlet_company70/om5ru80000007pa7-att/om5ru80000007pg9.pdf 産業別高齢者雇用推進ガイドラインのご紹介 〜高齢従業員がいきいきと働くためのヒント集〜 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 http://www.jeed.or.jp/elderly/research/enterprise/hints.html 2 高年齢労働者の安全衛生の総括管理 (1)基本方針の表明 (2)高年齢労働者の安全衛生対策の推進体制の整備等 第13 次労働災害防止計画 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197308.html 職場のあんぜんサイト 厚生労働省 http://anzeninfo.mhlw.go.jp/ 「安全衛生情報センター」のWEBサイト 中央労働災害防止協会 https://www.jaish.gr.jp/ 労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針(平成11年労働省告示第53号) 厚生労働省 https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-2/hor1-2-58-1-0.htm 危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成18年3月10日厚生労働省公示第1号) 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000077404.pdf 高年齢労働者の活躍促進のための安全衛生対策〜先進企業の取組事例集〜 中央労働災害防止協会 http://www.jisha.or.jp/research/report/201703_01.html 「働く人に安全で安心な店舗・施設づくり推進運動」のWEBサイト 厚生労働省 http://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/sanjisangyo.html 3 高年齢労働者に多発する労働災害の防止のための対策 (1)転倒防止 「STOP!転倒災害プロジェクト」のWEBサイト 厚生労働省 http://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/tentou1501.html 「STOP!転倒災害プロジェクト」のリーフレット 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000111161.pdf (2)墜落・転落防止 足場からの墜落・転落災害防止総合対策推進要綱(平成27年5月20日付け基発第0520号第1号) 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000088456.pdf 「足場からの総合的な墜落・転落災害防止対策について」のパンフレット 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/120309-1.html 「足場からの墜落防止のための措置を強化します」のパンフレット 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/150618-2.pdf 「正しく使おうフルハーネス」のパンフレット 建設業労働災害防止協会 http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/170131-1.pd (注)リスト全体(1〜9)の中から1〜3の内容を抜粋したもの 出典:中央労働災害防止協会「エイジアクション100」 図表5 「エイジアクション100」を活用した職場改善の流れ (1)現状把握 事業所における過去の労働災害の発生状況、高年齢労働者の作業負荷の程度や健康状況等の現状把握を行います。 (2)チェックリストの活用 @チェックの実施  「チェックリストの解説」やその他の参考資料を参照しつつ、チェックリストにチェックを行います。 A優先度のマーク  「×」がついた項目のうち、優先度が高いと考える項目に、マークをつけておきます。 (3)職場改善の実施 @取組み事項の選定  ア「×」がついた項目のうち優先度が高いものについて、「職場改善計画」を作成し、安全衛生委員会等において検討を行い、事業所としての方針を決定し、取組みを進めます。  イ「主な業種別の最優先取組事項」の中で「×」がついた項目については、そのまま放置した場合には、労働災害に直結する可能性が高いことから、できる限り優先して取組みを進めます。 A職場改善策の検討  職場改善策を検討するにあたっては、国などが示している各種の労働災害防止や健康確保に関するパンフレットなどを参考にします。 BPDCAサイクルの仕組みによる着実なレベルアップ  職場改善の取組みの1サイクルは、主に6か月〜1年くらいに設定し継続実施することにより、中長期的・継続的な取組みとして、着実にレベルアップしていけるようにします。 出典:中央労働災害防止協会「エイジアクション100」 「エイジアクション100」はコチラから 「エイジアクション100」Webサイト http://www.jisha.or.jp/research/ageaction100/index.html または エイジアクション100 検索 【P17-18】 レポート 高年齢労働者が安心して働ける職場の実現へ 中央労働災害防止協会が「高年齢労働者の安全と健康確保のための職場改善セミナー」を開催  中央労働災害防止協会(中災防)は、2018(平成30)年6月7日(木)、「高年齢労働者の安全と健康確保のための職場改善セミナー」を開催した。同セミナーは、生涯現役社会の実現につながる高年齢労働者の安全と健康確保のための職場改善を目的としたもの。プログラム前半は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の報告と、千葉大学大学院の能川(のがわ)和浩(かずひろ)講師による講演、そして企業の取組み事例が発表され、後半は「エイジアクション100の概要と企業における活用方法」が紹介された。  はじめに、公益財団法人産業医学振興財団の櫻井(さくらい)治彦(はるひこ)理事長・調査研究委員会委員長からの開会挨拶が行われ、続いて、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の浅野浩美雇用推進・研究部長より「生涯現役社会の実現に向けての課題と展望」をテーマにした報告が行われた。同機構の調査データなどをもとに、65歳以上の就業者数と就業率が上昇しており、高齢者の就業意欲の高さや、高年齢労働者の働きぶりを企業が高く評価していることなどが報告された。今後も高齢者雇用はさらに進んでいくことが予想される一方で、高年齢労働者のモチベーションや病気・労働災害が課題となっていることが示された。  続いて「加齢に伴う身体・精神機能の低下による各種作業への影響」と題し、千葉大学大学院医学研究院環境労働衛生学の能川和浩講師による講演が行われた。能川講師は、高年齢労働者の作業機能や身体的機能、認知的機能のなかで、加齢により特に目立って低下する機能について解説。高年齢労働者の機能低下に対応する注意点を指摘したうえで、「作業管理、作業上の注意、配慮は、日ごろから各事業所で行っている産業保健活動と変わらない。すべての従業員が働きやすい作業管理、作業環境づくりが重要になる」と話した。  次に、企業の取組み事例として、トヨタ自動車株式会社安全健康推進部健康推進室健康チャレンジ8推進グループの井本貴之グループ長が登壇した。同社では、10年後、高年齢労働者の増加により、製造部門の生産ラインへの配属が予測されることから、体力づくりが非常に重要になるとの認識のもと、2015年より「いきいき健康プログラム」を全社で展開している。これは65歳まで「いきいき」働くための職場環境の整備・体力維持向上を目的とした取組みで、@体力の見える化(体力測定)、A運動指導会、B自助努力支援、の三つで構成されている。井本グループ長は同プログラムの取組みについて「標準化されたプログラムにより、各工場の活動を継続的にサポートするとともに、それぞれの工場における状況をとりまとめて共有することが大切。さまざまなデータを共有することで、工場における自主的・主体的活動の活性化につながり、健康・体力づくりに対する文化を醸成することができる」と話した。  次に、JFEスチール株式会社西日本製鉄所(倉敷地区)安全健康室ヘルスサポートセンターの乍(ながら)智之主任部員が登壇した。製鉄所の作業は身体面の負荷が非常に高く、作業環境による身体への影響も大きい。そこで同社では、安全に作業ができる体力かどうかを客観的に見える化するため「安全体力R」機能テストを開発・運用している。また、筋骨格系疾患対策、腰痛・肩こり・膝痛の予防・改善、転倒の予防を目的とした健康体操を開発し、各職場で導入を図っている。「これらの取組みに対し、ベテラン社員のなかには戸惑いも見られ、その重要性を理解してもらうには相当な時間と苦労があった。単なる健康づくりではなく、安全対策の一部として実施していることを伝えることも重要」と話した(19頁参照)。  続いて、「エイジアクション100の概要と企業における活用方法」について、中央労働災害防止協会教育推進部の下村直樹審議役が登壇し、解説を行った。同協会が作成した「エイジアクション100」とは、高年齢労働者の安全と健康確保のための職場改善に向けて推奨する100の取組みをまとめたもの。チェックリストを使い、職場の課題を洗い出して、改善を推進するための職場改善ツールとして開発した(12頁参照)。下村審議役は、「労働災害に直結する可能性が高い事項や、法令上の事業所の義務となっている事項から優先して取り組み、中・長期的あるいは継続的に、加齢による労働災害の防止と高年齢労働者が働きやすい環境づくりのため、職場でぜひ活用してほしい」と呼びかけた。  最後に、企業における「エイジアクション100」の活用方法として、株式会社東芝人事・総務部総務企画室の羽深(はぶか)勝也(かつや)安全保健担当参事が自社の取組みを紹介。「エイジアクション100」のチェックリストを活用し、作業現場を巡回・点検した成果を発表した。問題点の洗い出しを行ったほか、「良好な取組みが発見できた」ことをふまえ、「企業には、危険が予見できたら、それを回避しなくてはいけないという安全健康配慮義務がある。いま一度立ち止まって、高年齢労働者とともに働ける職場づくりを目ざし、エイジアクションをうまく使って、トップの意識を変えて欲しい」と呼びかけた。  セミナーは多くの参加者の熱気のなか幕を下ろした。 公益財団法人産業医学振興財団櫻井治彦理事長・調査研究委員会委員長 @独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 浅野浩美雇用推進・研究部長 A千葉大学大学院医学研究院環境労働衛生学 能川和浩講師 B中央労働災害防止協会教育推進部 下村直樹審議役 Cトヨタ自動車株式会社安全健康推進部健康推進室健康チャレンジ8推進グループ 井本貴之グループ長 DJFEスチール株式会社西日本製鉄所(倉敷地区)安全健康室ヘルスサポートセンター 乍智之主任部員 E株式会社東芝人事・総務部総務企画室 羽深勝也安全保健担当参事 【P19-22】 企業事例 1 JFEスチール株式会社西日本製鉄所(倉敷地区) (岡山県倉敷市) 独自の運動能力テストと毎日の体操で作業を安全に行う「安全体力R」を増進 作業を安全に遂行するための「安全体力R」をチェック  JFEスチール株式会社は、2003(平成15)年、川崎製鉄とNKK(日本鋼管)が統合して誕生。仙台、千葉、京浜、知多、倉敷、福山に製鉄所・製造所を有し、世界トップクラスの鉄鋼生産規模と高い技術力を武器に、顧客や社会のニーズに応える鉄鋼製品をグローバルに提供している。  その主要生産拠点の一つである倉敷地区では、2004年から、独自の「安全体力R」機能テストを実施している。  このテストを始めた当時、同地区では、転倒災害が多発しており、転倒した従業員の約半数が40歳以上だったという。一方、私傷病で休職する従業員も少なくなかったが、その原因は、休業件数・休業日数とも、腰痛、膝痛などの筋骨格系疾患が最多であり、その背景には、約8割が40歳以上という従業員の高齢化があった。2006年には雇用延長制度の導入を予定しており、転倒災害や筋骨格系疾患のさらなる増加も予測された。  ちょうどそのころ、他地区で、63歳の従業員が水路に転落する事故が発生した。すぐに、柵の設置や救命胴衣の着用といった対策がとられたが、西日本製鉄所(倉敷地区) 安全健康室ヘルスサポートセンター主任部員(係長)で、公益財団法人日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーの資格を持つ乍(ながら)智之氏は、それだけでよいのかという疑問を持った。  「作業の見直しや設備・環境の整備は、もちろん必要です。ただ、この方の年齢に注目すると、バランスや筋力、視力の低下、あるいは、服薬の影響などがあったのではないかとも考えられました。そもそも安全に作業を行える体力があるかを事前に確認しておけば、災害を防げたのかもしれません。スポーツの世界には、プロテストや競技大会など、参加するのにこれくらいのタイムが必要という指標があります。同様に、職場にも、安全に働くための体力の指標が必要と考えました」  そこで、作業を安全に遂行するために必要な体力を「安全体力R」と定義し、それを客観的に見える化するツールとして、「安全体力R」機能テスト(図表)を開発。岡山県立大学の、辻博明名誉教授の協力も得ながら、自社の作業に必要な体力を測定できる種目と評価基準を自分たちでつくり上げた。 4分野・8種目のテストで改善の必要性を見える化  「安全体力R」機能テストでは、転倒、腰痛、危険回避、ハンドリングの四つのリスクを8種類のテストでチェックする。転倒リスクと腰痛リスクを見るのは、これらの災害・疾患の多さからいって当然だろう。「危機回避能力テスト」は、危ないと思ったときにとっさによけることのできる反射神経を確認するもので、未然に災害を防ぐうえで重要である。また、高所の荷物を降ろしたり、ハンマーを使用するなど肩関節の柔軟さや一定の握力が必要となるため、それらを見るための「ハンドリングテスト」も設けた。  転倒リスクをチェックする三つのテストは、いずれも、ペットボトルを載せたA3判の画板を持って行う点が特徴。例えば「5m平均台歩行」では、画板を持った状態で5mの平均台の上を何秒で渡れたかを計測する。人は歳をとると、1歩ずつ足元を目で確認しながら歩くようになる。しかし、職場では、いつも足元を見ながら歩けるわけではない。また、仕事中は物を持って移動することが多く、腕でバランスを取れるとは限らない。そこで、画板によって足元の視覚情報を制限し、上肢も自由に使えないようにした状態で計測することにした。また、画板を胸から離さず、ペットボトルを落とさないようにしながら歩くというように、一つのことに集中できない状況を意図的につくり出している。  倉敷地区の従業員約4000人は、毎年、健康診断時にこのテストを受ける。中高年層だけでなく全員が対象で、多い年は 年間約2万人におよぶ協力会社従業員、関連業者にも受けてもらう。病気やケガから職場復帰する際にも実施し、産業医が復職の可否や就業制限などを判断する資料として用いている。  各種目とも5段階評価で、評価1が危険域、評価2が要注意域、評価3が普通、評価4・5が安全域となる。このテストは、製鉄所のなかで安全に働くうえで必要な体力があるか否かをスクリーニングするためのものなので、より上を目ざすというより、一定ラインを満たしていることの判別に重点を置いている。そのため、当初は、5段階評価ではなく、「〇」か「×」かで判定していたそうだ。ところが、実際の労働災害を調べてみると、基準をクリアして「〇」の評価を得ているものの、標準より劣る人たちが災害を起こすケースが多く見られた。そこで、5段階評価にし、最低ラインは超えているが、標準レベルには達していない評価2の層の改善を図ることにした。  評価1となった場合、ヘルスサポートセンター(運動指導担当者3人)が個別指導を行い、2カ月後に再測定をする。評価1となるのは全体の1%程度で、その多くは、個別指導によって改善する。再測定でも不合格となった場合は、産業医が面談したうえで、就業配慮を行ったり、人事部が配置転換を検討する。評価2の人に対しては、将来、評価1に低下しないように個別指導を行い、改善に取り組んでもらう。たいていの人は、「自分は大丈夫」と思い込んでいるが、このようにして自身の体力の現状について自覚をうながすことで、普段からけがをしないように気をつけて作業をしたり、体力の向上に努めるようになるという。  なお、テストの種目や評価基準は、年齢にかかわらず同一。職場では、すべての従業員が、同じ条件で同じ作業をするためだ。ただし、39歳以下は、評価2でも再測定を行うこととし、早期改善を図っている。 職場で毎日行う二つの体操で肩こり・腰痛や転倒を予防  さらに、予防の観点から、日常的に取り組む運動として、「アクティブ体操R PartT、PartU」を考案した。従来から行っていたラジオ体操に替わるもので、PartTは8時50分、PartUは15時から所内放送を流し、全従業員が毎日実施している。  PartTは、「安全体力R」機能テストと同じく2004年に開始した。肩こりや腰痛など筋骨格系疾患の予防・改善を目的とする10種目、約4分間の体操である。  開発にあたっては、自社で行われている作業を調査し、作業姿勢などによって体のどこに負担がかかるかを予測して、どのような体操が必要か検討した。例えば、どうしても猫背になりやすいので、肩甲骨を動かして胸郭(きょうかく)を広げる肩回し運動や、五十肩の予防のため、両手を頭の上に伸ばし、手の甲を合わせる肩の運動などがある。また、体が硬いと腰痛リスクが高まるので、柔軟性を高めるストレッチを多く取り入れた。しゃがみこんで作業をした後、急に立ち上がった際にぎっくり腰になることがある。その要因として、太もも前側の筋肉が硬いこともあるので、それを予防するストレッチなどを行う。さらに、高齢になるとまっすぐ立つための筋力が弱くなるので、筋力低下を防ぐためスクワットとつま先立ちを行う……というように、自社で実際に行われている作業や労災予防の観点から、必要性の高いものを選んでいる。  これらの体操は、スカートでもサンダルでも、狭いスペースで立ったままでもできる。人によって作業内容や体調が異なるため、各種目の実施回数は指定していない。放送のナレーションの間に自分のペースで行えばよい。  PartUは、2009年に開始した。転倒予防に特化した内容で、これも10種目、約4分間の体操である。三つの職場で効果を検証したうえで導入した。職場で転倒しないように筋力をつけてもらう必要があるため、PartTとは異なり、種目ごとの回数を定めている。  転倒しやすい人には、背中が曲がって骨盤が後傾していたり、足首が硬い、股関節が開かないといった傾向がある。そこで、四股(しこ)や股割りの姿勢をとり、体の重心を下げた状態で動くストレッチ、足首を柔らかくするストレッチなどを行う。体のバランスをとる体操では、仕事の場面を想定し、静止した状態でバランスをとるのではなく、体幹を安定させながら手足を動かす。屈伸や伸脚では、ひざを離さない、つま先をそろえる、かかとを浮かさないといったポイントを徹底する。  PartUは当初、現場の社員向けに開発したため、股を広げる動作が多い。そのため、全従業員が実施できるよう、女性社員用(スカート服)の体操も考案している。 地道な周知活動によりテストと体操が社内に定着  こうした取組みが奏功し、腰痛や転倒災害は大幅に減少した。倉敷地区をモデルにして、福山地区でも取り組むようになった。  ただ、初めからうまくいったわけではない。「『安全体力R』機能テストを始めた当初は、ベテラン従業員から、『なぜこんなことをしなければならないのか』と、くり返しいわれました。地道に現場を回り、このテストの意義を紙芝居方式で説明したり、各種目が正しく行われるようデモンストレーションもしました。『このテストで本当にリスクが分かるのか』という疑念の声もありましたが、実際に転倒災害を起こした人は評価2以下の人が明らかに多く、次第に有効性が理解されてきました。『去年はできなかったけど、立てるようになった!』、『筋力が落ちたな……』などと、みんなが意識するようになりました。アクティブ体操Rについても、あらゆる現場に出向き、5分でも10分でも話をして、理解を得るように努めました。写真と文章だけでは伝わらないので、社員の協力で動画もつくりました」(乍氏)  このようにして機能テストや体操が現場に定着したが、周知活動に終わりはない。昨年は、産業医巡視の際の講話でアクティブ体操Rを取り上げてもらった。 健康づくりとしてではなく、安全対策という位置づけを徹底  「私はこの事業所の硬式野球部出身ですが、野球では、ボールがイレギュラーしても、グラウンドのせいにはしません。雨でぬかるんで滑って転んでも、『それは自分が悪い』となります。職場においても、設備や作業の改善は人に頼らない対策として最も重要ですが、一方で、『それだけ体が硬かったら、腰痛にもなるだろう』という働く人の要因もあります。安全対策においては、そこにも注目する必要があると思います」と語る乍氏に、他社へ向けてアドバイスをいただいた。  「迅速に水平展開するには、トップの指示が重要であることはいうまでもありません。ただ、ボトムアップが必ずしも悪いわけではありません。当社の場合、当センターの活動として現場から展開したので時間はかかりましたが、結果的に財産になっています。現場の作業を見ることで、作業時の姿勢などいろいろなことがわかります。自社に合った体操をつくるには、机の上で考えるのではなく、作業を実際に見て、作業特性・作業姿勢に合わせて考えることが大切です。  また、当社では、この取組みを健康づくりとしてではなく、安全対策として行っています。健康づくりは任意参加になりがちですが、安全の観点から実施したため、結果として全員参加型の健康づくりにもなっています。どんなに健康な人でも、身体機能が低下しない人はいません。会社が主体となり、一日のスケジュールに組みこむことが重要です。体力は改善しますので、測定するだけでなく、運動指導、回復支援につなげることが大事です。  体操を毎日するのはたいへんと思われるかもしれませんが、習慣化のためにも、毎日行うことをおすすめします。そうすれば体が覚えるので、仕事をしていて疲れたら、『ああ、疲れた』などといいながら2〜3回肩を回すなど、アクティブ体操Rのなかで覚えている動きを、業務の合間に取り入れてもらうような使い方が理想です」 ※アクティブ体操Rは、YouTubeのJFEスチール公式チャンネルに掲載するとともに、JFE 西日本ジーエス株式会社でDVDを販売している。また、株式会社第一学習社から、「安全体力R」機能テストを販売している 安全健康室ヘルスサポートセンターの乍智之主任部員 図表 「安全体力R」機能テスト 転倒リスクテスト(3項目) 片脚立ち上がり 体重を支える脚の筋力 5m平均台歩行 バランスを崩さず歩く能力 2ステップテスト つまずかずに歩行する能力 腰痛リスクテスト 腰椎・股関節柔軟性 腹筋筋力 危険回避能力テスト 全身反応時間 ハンドリングテスト 手の操作範囲 把持(はじ)筋力 【P23-26】 企業事例 2 社会福祉法人伸こう福祉会 (神奈川県横浜市) 人力で抱え上げないノーリフト介助を導入だれもが無理なく働ける環境づくりを行う 多様な人材を採用・育成80歳まで勤務可能な体制を整備  社会福祉法人伸こう福祉会は1999(平成11)年3月に設立され、神奈川県内を中心に、介護施設(特別養護老人ホーム、グループホーム、介護付き有料老人ホーム、デイサービスなど)、保育施設(認可保育園、認定保育園、子育て支援施設、企業主導型保育など)のほか、障害者グループホームや障害者自立支援など、多様な福祉事業を展開している。  「たくさんのよきものを人生の先輩たち、後輩たち、そして地域に捧ぐ」を基本理念に掲げ、利用者が個人の尊厳を保ちつつ、その能力に応じて自立した日常生活を営むことができるよう支援することを目ざし、「『よきもの』を探し続け、捧げていく」ケアの実践に努めている。  多様な価値観を持つ利用者に応えるためには、多様な個性を持つ人材が必要と考え、従業員には人生経験を重ねた高齢者のほか、病とともに生きる人、障害のある人、外国人など多様な人材を採用し、充実した研修体制を整えることによって、介護や保育の知識、経験がない従業員の育成を行っている。  2018年7月末現在、従業員数は1103人、60歳以上は281人で、法人全体の約25%。60歳以上の内訳は、60代が205人、70代が75人、80代が1人となっている。同法人は2011年に定年年齢を60歳から70歳に引き上げ、定年後も働くことを希望し同法人が認めた場合は、非常勤職員として80歳まで継続して働くことができる制度を整えている。 介護現場で必要な「移乗介助」従業員の負担軽減が大きな課題に  特別養護老人ホームなどの施設では、体が不自由な利用者が居室から食堂などへ行く際、ベッドから車いすへ利用者に移ってもらう「移乗(いじょう)介助」が必要となるが、これまでの方法は体を抱え上げる動作で介助を行うことが多く、介助者(従業員)の腰に大きな負担がかかる。このため腰痛が生じやすく、同法人でも腰痛を患っている介護職スタッフ(以下、スタッフ)は少なくない。そのため、移乗介助に対応できるスタッフが減少しており、一部のスタッフに負担が集中する悪循環が生まれているという。ただでさえ人手不足な介護業界。移乗介助ができるスタッフのシフト調整もむずかしくなってきているそうだ。  このような状況を改善するため、高齢であっても、腰痛があっても、無理なく働ける環境が必要になるという考えのもと、同法人では2015年より、介護の現場に「ノーリフトケア」※1を導入し、実践している。  ノーリフトケアは「人の力だけで抱え上げない・持ち上げない」という考え方に基づいた介護の手法で、オーストラリア看護連盟が、看護師の腰痛予防対策のため1998年ごろに提唱した「ノーリフティングポリシー」が基となって普及。介助をされる人の状態に合わせて、福祉機器を有効に活用して取り組む介護手法で、介助者の腰痛予防だけでなく、介助される人にとっても安全で安心な手法として、日本でも徐々に広がりをみせている。 「ノーリフトケア」導入の経緯スタッフの健康を守るために  同法人におけるノーリフトケアの実践は、運営する施設の一つ「クロスハート栄・横浜」で先駆的に導入。「ノーリフトケアコーディネーター」を養成しながら、同法人内のほかの介護施設に展開しており、将来的には同法人の全介護施設に導入することを目ざして取組みを進めている。  「クロスハート栄・横浜」は128床(うち16床はショートステイ)の特別養護老人ホーム。利用者は、介護度の高い4または5の人が多く、一日三回の食事や入浴などのため、スタッフは毎日何度も移乗介助を行う。  同施設においても、介護業界の例に漏れずスタッフの高齢化が進行しており、現在この施設に勤務するスタッフ100人のうち、40人が60歳以上となっている。同施設の横尾かおり施設長は次のように話す。  「スタッフの高齢化もあり、若いスタッフの負担が増加しています。働ける時間帯がかぎられる出産・子育て世代のスタッフも多く、人員の少ない時間帯の勤務は高齢のスタッフが引き受けてくれるのですが、腰痛で移乗介助に対応できないスタッフもいます。現在100人のスタッフがいますが、移乗介助に対応できるスタッフは30人ほどで、シフトを組むのもむずかしいのが現状です。若いスタッフのなかにも腰痛を訴える者がいたり、疲弊して離職するという負のスパイラルが生じているのです。  介護職にとって、腰痛で現場の仕事ができなくなって辞めざるを得なくなることほどつらいことはありません。介護の仕事が好きでこの職を選んだという人が多いからです。管理者の立場からすると、やる気があるのにもったいないという悔しさでいっぱいになります」  2013年6月、厚生労働省は腰痛の発生が比較的多い作業についての対策を打ち出した『職場における腰痛予防対策指針』を19年ぶりに改訂し、福祉・医療分野における介護・看護作業全般が新たに適用範囲に含まれた。横尾施設長は同指針もふまえて、腰痛をはじめ、スタッフの健康を守る観点から、時間がかかってもリフトを活用した介助を行うための職場環境整備に取り組むことを考え、ノーリフトケアの導入に動き出したという。 「ノーリフトケア」の導入ステップ全介護職スタッフへの浸透に向けて  クロスハート栄・横浜をはじめ、同法人内の介護施設にノーリフトケアを導入する取組みは、2015年よりスタート。まず、介護主任やリーダーを中心に、日本ノーリフト協会の「ノーリフトケアコーディネーター養成講座」(7日間)を受講。その後、講座を受講して「ノーリフトケアコーディネーター」になったスタッフが講師を務め、クロスハート栄・横浜のスタッフに4カ月間で8回の研修を実施。また、同時にリフトを5台導入し、実際の体験を通して確実に技術を習得できるようにした。  現在は非常勤スタッフも含めて、ノーリフトケアを学ぶ「ベーシック養成講座」(3日間)、「アドバンス養成講座」(3日間)を外部研修により行い、全スタッフに浸透を図ることに努めている。  研修を受講したスタッフからは、「高齢の自 分も覚えなければならないと思った」、「これまで行っていた腰痛予防は対処法であり、初めから腰痛にならない解決法を学べた」などの感想が聞かれている。 利用者、介助者のどちらにもメリットがある介助の方法  ノーリフトケア導入の効果として、真っ先にあげられるのが、スタッフの負担軽減効果。スタッフへのアンケートによると、約9割のスタッフが「介護手法が改善された」と回答しているという。とはいえ、まだ普及の途中であり、現場では従来の移乗介助を行うこともあるため、「腰痛対策の効果が現れるまでにはもう少し時間がかかる」と横尾施設長は話す。  一方で想定外の効果もあった。導入当初は、ベテランのスタッフから「リフトを入れても時間がかかるだけ」などの反対意見もあったが、研修を受けるうちに、人力ではなくシートで体を包むケアは、利用者の状態を改善することがわかってきた。人力で抱きかかえられる介助は、利用者を不安にさせ、その怖さが拘縮(こうしゅく)※2を生み出すのだという。この方法により、利用者へのケアの質が上がることに気づき、横尾施設長をはじめ、多くのスタッフの意識が変わったそうだ。  「ノーリフトケアは、利用者、介助者のどちらにもメリットがある方法として、いまではスタッフの関心もかなり高まっています。介護職にとって、利用者の状態がよくなることは仕事の満足度につながります。スタッフの負担も軽減され、モチベーションに変化が生じてきておりノーリフトケアの成果を実感しています」と横尾施設長。今後も、利用者をケアする支援の質の向上とスタッフの健康を守るため、また、だれもがノーリフトケアができるようになることで、移乗介助の役割分担が無理なくできるようにするため、ノーリフトケアの浸透に注力したいと話した。 安全運転ドライバー講座など中高年や高齢スタッフ向けの取組み  同法人ではノーリフトケア以外にも施設安全衛生やスタッフの安全・健康確保の取組みを行っており、2017年には「安全衛生推進者の育成」を目的として、各施設の施設長や主任らを対象に、中央労働災害防止協会から講師を招き、研修を実施した。  また、ストレスチェックの実施や、その結果を受けて高ストレス者へのケアを行うことをはじめとして、全スタッフに配布するスタッフブックに、「健康診断」、「体調不良・ケガ」、「メンタルヘルス」、「休暇と休息の取得」などを重要項目として記載して周知。心身の健康についても常に注意喚起している。  中高年や高齢スタッフ向けの取組み事例としては、例えば、2017年に送迎担当者対象の「安全運転ドライバー講座」を開催した。この研修では、高齢スタッフとそれ以外の従業員に分け、前者にはより特化したプログラムの研修を行っている。  同法人本部の白國(しらくに)文佳(ふみか)さんは、高齢スタッフに対するこのほかの取組みと今後の方向性として、「W働くWことがW生きがいWにつながっている人が多いので、法人としては、できるだけ長く、元気で働いてほしい。そのため、高齢スタッフについては、体力や認知能力の変化に合わせて業務範囲の見直しや異動など、個別のフォローを行っています。今後は、フォロー体制をシステム化するなど、より充実させていきたいと考えています」と話してくれた。 ※1 「ノーリフトケア」は、一般社団法人日本ノーリフト協会の商標登録用語 ※2 拘縮……関節が硬くなり動きが悪くなる状態 力を使わず安全に移乗ができる「ノーリフトケア」  クロスハート栄・横浜のノーリフトケアの様子。ベッドに横になっている要介護の女性が食堂へ移動するため、床走行式リフトを使用して、ベッドから車いすに移乗する介助である。かかった時間は2、3 分。スタッフは2人体制だったが、1人でもできるという。力はまったくといっていいほど使わずにできる。車いすに移乗した女性に不安な様子は一切見られず、穏やかな表情で撮影に応じてくれた。 1 ベッド上の女性にスタッフが声をかける 2 ベッドに横になっている女性の体の下にリフト用のシートを敷き込む 3 シートで体を包んで上体を起こし、座った状態になってもらい、シートの吊り下げ部分を床走行式リフトのフック(2カ所)に掛ける 4 女性の様子に気を配りながらスタッフがリフトを操作(電動)し、少しずつ上昇させてベッドから離れ、適度な高さでリフトをキャスタで移動し、車いすの上へ 5 座った状態のまま女性を車いすに降ろし、女性が安全に車いすに座ったことを確認 6 体を包んでいたシートを外して完了 「クロスハート栄・横浜」の横尾かおり施設長 ノーリフトケアに取り組む同法人の特別養護老人ホーム、クロスハート栄・横浜 【P27-29】 企業事例 3 山崎製パン株式会社 (東京都千代田区) 中高年層の意識と行動を変えるため「転倒災害防止研修」をスタート 約2500人の60歳以上の従業員が活躍する日本最大の製パンメーカー  山崎製パン株式会社は1948(昭和23)年に設立された。ソフト食パンの代名詞ともいえる「ダブルソフト」、多彩なラインナップの「ランチパック」シリーズなど、数多くの人気商品を抱える、日本最大の製パンメーカーである。  従業員数は1万9109人。定年年齢は60歳で、その後は「スキルドパートナー制度」と呼ぶ再雇用制度により65歳まで継続雇用する。現在、スキルドパートナーは845人。アルバイトを含めると60歳以上の従業員は約2500人におよぶ(コンビニエンスストア事業を除く)。  同社では、高齢層に特化した安全教育を行っていくことを全社方針に掲げ、2017(平成29)年に「転倒災害防止研修」をスタート。同社における安全管理は、本社人事第二部が企画・計画を立案し、各工場に配置された安全担当者が研修などを実施する体制を整えている。転倒災害防止研修もその枠組みのなかで行われている。  継続雇用であるスキルドパートナーは、生産現場のほか、製品の仕分け、配送などさまざまな職場で活躍している。単に雇用を保障するのではなく、重要な戦力としての活躍を期待しており、勤務体系については、以前はハーフタイム・フルタイムの選択制であったが、フルタイムに一本化し、一層の戦力化を図っている。  「スキルドパートナーの方に一番期待しているのは、技能・技術の伝承です。パンづくりは、機械にかければだれでも簡単にできるというものではありません。パンはまさに生きもので、気温が1℃違うだけでも発酵の仕方が変わります。それに応じて、ミキシングの回転数や水の配合などを細かく調整することで最適な生地ができるのです。そうしたマニュアル化しづらい経験値を後進に伝えてもらっています。また、当社の生産部門は、品質に命を懸(か)けているといっても過言ではありません。そういった会社が大事にしている考え方や自社の歴史を語り継ぐ役割もになってもらいます。それらに加えて、人手不足感が強いなか、より一層活躍してもらうことも期待しています」  人事本部人事第二部の馬場(ばんば)誠次長は、シニア層への期待について、こう説明する。 中高年層対象の研修をスタート独自の「転倒防止体操」を考案  高齢労働者に活躍してもらううえで重要なのが、加齢によって生じる体力や筋力の低下への対応である。とりわけ、生産現場における転倒災害を防ぐことは、重要な課題といえる。  「転倒災害は一般社会でもクローズアップされていますが、当社の工場でも多く発生しており、昨年の当社の災害の36%が転倒災害でした。なかでも中高年層の占める割合が高く、40代26%、50代42%、60代32%となっています。転倒して休業した場合の休業日数は、平均で46日におよびます。健康寿命を延ばす観点からも、転倒事故を防ぐことが重要です」  そこで2017年より全社をあげて「転倒災害防止研修」を実施。2017年は40代以上、2018年は50代以上を対象に行っている。  研修ではまず、自社の転倒災害の傾向について解説。同社の工場では、特に水や粉を使うことが多く、それらが滑る原因になっていることを説明したうえで、実際に自社で発生した事例を紹介する。次に、加齢による骨密度や体の柔軟性の低下、視力・聴力の衰えなど、科学的根拠や具体的なデータを示しながら、中高年齢者の転倒災害がなぜ重傷化するのかを理解させる。  そのうえで、体力のセルフチェックを行う。閉眼片足立ち、座位ステップなど、中央労働災害防止協会(以下、中災防)が公表している体力テストを簡便にして実施している。工場によっては、骨密度も測定しており、これらのデータは毎年蓄積して、経年比較によって自身の体力の低下を自覚できるようにする考えだ。  そして、この研修のメインである独自開発した「転倒防止体操」を行う。参加者に動画を見てもらい、実際にみんなで体操をする。  「基本部分は、中災防の講義などからヒントを得て、オリジナルで組み立てました。当社の生産現場は、作業形態も出勤時間もさまざまですので、全員一斉に行うことはできません。ですから、できるだけ簡便にでき、かつ、高い効果が得られるよう工夫しました。また、各工場は、それぞれ設備などが異なり、環境は一様ではありません。そのため、全社一律の動画を用いるのではなく、それぞれの工場の安全担当者に、その工場に合った工夫をしてもらいました。各工場には、この体操かストレッチ体操を始業前に行うことを推奨しています」  研修の最後には、転倒防止のための注意事項を伝える。特に強調しているのが、基本ルールの徹底。「工場内では走らない」、「床に何かをこぼしたら、こぼした人が拭く」といったあたり前のことがあたり前にできるように指導する。  充実した内容だが、研修時間は30分〜1時間程度。全員が勤務時間中に受講できるよう、ポイントを押さえて短時間にまとめた。 早くも研修の効果が見られ、生産現場の転倒災害が減少  受講者からは、「こんなに骨密度が落ちるのか」、「こんなに休業が長引くのか」など驚きの声が多く上がり、研修により転倒を予防する必要性を認識し、より注意して仕事に臨むようになった。2018年上期の転倒災害の発生件数は、前年同期より25%減少し、昨年研修を行った40歳以上にかぎると38%も減少している。  「このような研修は、一回やって終わりにするのではなく、くり返し行うことが肝要です。取組みの効果も出始めていますので、今後も継続していきます。年間の安全計画では年一回以上実施すると定めていますが、各事業所には、『可能であれば、複数回実施してください』と依頼しています。特に転倒災害を起こした事業所には、二回目の実施を指示します」(馬場次長)  実際に研修を行うのは、各工場の人事課だが、本社としても、現場に丸投げしているわけではない。最近も、転倒の一番の原因である滑って転ぶことを防ぐために、「転ばない歩き方」の動画を作成した。足の裏全体で接地し、かかとだけに重心をかけないこと、歩幅を小さくすることなど「ペンギン歩き」としてわかりやすく示した。 現場のアイデアも取り入れつつ職場改善を進める  ほかにも、同社の健康保険組合が民間のスポーツクラブとタイアップして、短時間でできる「転倒予防体操」、「腰痛予防体操」を考案し、DVDを各事業所に配付した。「手を替え品を替えやらないと、人間の興味は薄れてしまいます」(馬場次長)との考えから、工夫しながら、継続的に啓発活動を行っていく方針である。  また、床を滑りにくい材質にしたり、段差を解消するなど、ハード面の改善にも取り組んでいる。メーカーの協力を得て、滑りにくい作業靴の開発も進めている。  今年は、「工場内では慌てない」といった基本ルールを再度徹底するとともに、通路の確保や工場内の整理整頓にも取り組む。例えば、ラインテープを色分けして視覚に訴えることで、通路とそれ以外を明確に区分したり、段差を見えやすくすることで、転倒の防止につなげる。  従来から行っている5S活動※でも、「安全」をキーワードに、作業環境の改善を行っていく。これまでも、力を使わなくても材料を投入できる仕掛けを考案したり、作業台の高さを調整できるように改造して無理な姿勢をしなくてすむようにするなど、現場のアイデアによってさまざまな工夫がなされている。  「管理職の『マネジメントの5S』と、現場の『小集団活動』によって、職場改善を進めています。われわれ人事だけで考えるのではなく、現場で働く人の意見を取り入れて職場改善につなげていくことが重要です。筋力や体力、あるいは経験がある男性だけではなく、高齢者や女性、外国人、未経験者でも、安全に身体の負担を低減し、正確な作業を可能とすることが生産性や品質を高め、安全にも寄与します」  最後に、馬場次長に、他社の人事担当者に向けたメッセージをいただいた。  「当社も試行錯誤しながらやってきましたが、振り返ると、データや科学的根拠に基づいて説明し、転倒災害の危険性を『見える化』するように心がけたことが、従業員の納得感を高め、自分事と受け止めてもらうことに役立ったと感じます。安全の問題にかぎらず、納得感を持って働いてもらうことが重要です。  もう一つ大事なことが継続することです。物事はなかなか伝わりませんよね。自戒を込めて申し上げると、100回いってダメなら1000回、1000回いってダメなら1万回と、粘り強く伝え続けないと、徹底することはむずかしいと思います」 ※5S活動……職場の安全衛生活動の基本といわれ、整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seisou)、清潔(Seiketu)、躾(Situke)の頭文字をとったもの 人事本部人事第二部の馬場誠次長 転倒災害防止研修の様子(横浜第二工場) 危険箇所の見える化(熊本工場) 【P30-31】 江戸から東京へ 第72回 老いても初心を大切にする 中村の長兵衛 作家 童門冬二 城主になった秀吉への祝品は?  豊臣秀吉の生地は尾張国の中村(愛知県名古屋市)である。子どものころの名は日吉(ひよし)といった。織田信長に仕えてからは木下(きのした)藤吉郎(とうきちろう)と名のるようになった。秀吉がはじめて一城の主になったのは、琵琶湖畔の長浜(今浜を信長から一字貰(もら)って秀吉は地名変更した)だった。生地の中村では大変な評判になった。  「あの日吉がお城の主になったぞ」  「お祝に行かなければいけないな」  村人たちはそう言葉を交わし合った。そこで村の長老の長兵衛の所に行って、  「日吉のお祝には、何を持って行ったらいいでしょうか」  と相談した。長兵衛は事もなげに、  「決まっている。あいつはこの村でできたゴボウが好きだった。ゴボウを持って行ってやれ」  「長兵衛さんは流石(さすが)だ。たしかに日吉はゴボウが好きだった。きっと喜ぶぞ」  みんな賛成し、保管してあった泥つきのゴボウを縄で括(くく)って届けることにした。長浜城に行くと秀吉は飛び上がって喜んだ。  その姿を見て、中村の村人たちも嬉しそうに頷(うなず)き合った。そして、  (長老の長兵衛さんは流石に日吉の性格を知っている)  と感心した。  信長が死んだあと、秀吉の出世はトントン拍子に進み、ついに関白になった。人臣(じんしん)としては最高位だ。村人たちはまた、  「お祝に行こう」  と相談した。何がいいかということになって、一人がいった。  「いま、京都では越前の羽二重(はぶたえ)が流行しているそうだ。みんなで金を出し合って、代表が越前に羽二重を買いに行って日吉に届けよう」  「もう日吉ではないぞ。関白様だ」  笑いながら金を出し合い、代表が越前に行った。羽二重を買うとそれを京都の聚楽第(じゅらくてい)にいる秀吉の所に届けた。 関白になった秀吉への祝品  ところが秀吉は羽二重を見ると急に顔色を変えて不機嫌になった。村人たちにはその理由がわからない。秀吉は怒った。こういった。  「おまえたちは貧しい生活を我慢して生きていると思ったから、わしの生地なので年貢を無料にしてやった。しかし、こんな羽二重を買うだけの金があるというのは、おまえたちの暮しが豊かな証拠だ。  そんな金があるのなら、今年から年貢は二倍にしてやる。とっとと帰れ!」  凄まじい権幕だ。みんな驚いた。這(ほ)う這(ほ)うの体で聚楽第から逃げ出した。  このころ、長老の長兵衛は孤独だった。歳をとり高齢化したため、若い連中が次第に相手にしなくなっていった。若い連中も、ここが名古屋に近い村なので都会の流行に汚染されていった。だから長兵衛のいうことはすべて、  「古い化石が何かいっている。いまの時代にはまったく合わない」  といって、相手にしなかった。長兵衛は家族を亡くし、一人ぼっちだったので次第に孤独になっていった。しかし、長兵衛には信念があった。それは、  (わしには、大切な初心がある)  という自信だ。だから、人臣として位を極めた秀吉の出世をわいわいいいながら騒いでいる村人を見ても、冷ややかだった。  聚楽第から追い返されて来た連中は、結局はまた長兵衛のところにやって来た。  「爺さん、こういう次第だ。何を持って行けばよかったんだろう?」  と訊いた。長兵衛はぶすっとして、  「ゴボウだ」  と突き放すようにいった。村人たちは顔を見合わせた。みんな、  (いまさらゴボウかよ?)  という疑いの色があった。しかしほかにいい知恵がないので、またゴボウを縄で括って京都に行った。聚楽第の秀吉は、これを見ると嬉しそうにほほ笑んだ。そして、  「これだ、これだ」  と喜びの声をあげ、村人たちに告げた。  「わしがゴボウを大切にするのは、心の問題なのだ。わしはおまえたちの村で貧しく育った。あの経験はいまも忘れてはいない。だから、わしはどんなに偉くなろうとおまえたちのことを常に思い出しては、ああいう連中をすべて豊かにすることがわしの政治(まつりごと)の目的なのだ。それがわしの政治家としての初心だ。それを、おまえたちは流行の羽二重など持ってきてわしを嬉しがらせようとした。わしはちっとも嬉しくない。それは、流行品などを追いかけていれば、わしが初心を忘れてしまうからだ。  よし、よくゴボウを持ってきてくれた。年貢は免除してやる。ありがとう」  しみじみと語る秀吉の真の気持ちを知って、村人たちは一斉に、長老のことを思い出した。今の長老は、村人たちに見放されて、  「時代遅れ」  だの  「化石だ」  などといわれている。しかし長老は孤独になっても、自分の信念を曲げようとはしない。頑固に生きている。村人たちは、長兵衛の頑固さが尊いことを改めて身に染みて知った。 【P32-33】 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第53回  貞方義博さん(70歳)は電機関係の設計部門で三十余年を過ごした後、その経験を活かして派遣社員として働いてきた。リタイア後は悠々自適の日々を送っていたが、縁あって洗車スタッフとして仕事をすることになった。  「70歳でも大歓迎」という一枚のチラシは貞方さんの日常を大きく変えた。新しい自分と出会って奮闘する貞方さんが、「生涯現役」の喜びを語る。 一般社団法人 日本洗車技術指導協会 洗車スタッフ 貞方(さだかた)義博(よしひろ)さん いつも一生懸命  私は長崎県の五島列島(ごとうれっとう)出身です。五島には140ほどの島がありますが、8番目に大きいといわれる椛島(かばしま)に生まれました。  今年6月、五島列島は「長崎と天草(あまくさ)地方の潜伏キリシタン関連遺産」として、世界遺産登録を果たしました。両親もすでに他界し、島には墓もないため、ずいぶん帰郷していませんが、世界遺産登録のニュースに、かつての島の風景を懐かしく思い出しました。  島の人の多くが半農半漁の生活でしたが、家業を継ぐ同級生は少なく、中学を卒業すると若者たちのほとんどが島を出ていきます。私も、長崎市内の工業高校の定時制課程に進み、アルバイトをしながら電子工学を学ぶことになりました。  親元を離れての慣れない寮生活を支えてくれたのは、同じ五島から来ていた先輩でした。1年遅れて弟も長崎市に出てきたので、寂しい思いをした記憶はありません。  工業高校で学んだことを活かしたいと、神奈川県の制御装置の会社に入社、設計部門に配属され、制御盤のパネル装置の図面描きが最初の仕事でした。  神奈川では頼る人もいませんでしたが、すでに高校時代から自活していたおかげで、独立心は人一倍強かったように思います。  自分の好きな仕事に就くことができたので、毎日が充実していました。また、会社では専門分野の業務に加え、機械の修理などで出張も経験させてくれたため、サービスの心得を学ぶことができました。私としては定年まで働き続けたかったのですが、業界全体の不況の波を受けて会社が吸収合併されました。私も退職を余儀なくされ、32年で勤続が途切れることになりました。50歳のときのことでした。  家族のためにも次の仕事を必死で探しましたが、正社員になるにはハードルが高く、1年くらい仕事が見つかりませんでした。  そのころ、派遣という新しい働き方が注目されたこともあり、ラッキーなことに派遣社員として電機関連の会社で働く道が開かれました。  それから15年間、二社で勤務しました。  派遣先の職場では、駆動装置の組立てや、真空管関係の組立てなど、新しい分野に挑戦することになりましたが、新卒で入社した会社で多岐にわたって腕を磨かせてもらえたおかげで、それまでの技術を大いに活かすことができました。経験は宝物です。  経験とともに大切なことは「一生懸命」という姿勢だと思っています。私はいま、お客さまの車を磨き上げるという仕事に就いていますが、どんな仕事でも基本は「一生懸命」だと、あらためて肝に銘じています。  貞方さんは、言葉をていねいに選びながら話す。過疎化が進む島で生きることは厳しく、将来を考え単身で長崎市の高校の定時制課程で学び、そこで体得した技術で65歳まで技術畑を歩き続けた。「一生懸命」という言葉は、貞方さんにこそよく似合う。 一枚のチラシに背中を押されて  65歳で二つめの派遣社員をリタイアした後は、悠々自適(ゆうゆうじてき)の日々が待っていました。しかし、まだまだ元気なので働き続けたい気持ちがある反面、70歳を目前にした自分を雇ってくれる職場などないだろうと、半(なか)ばあきらめかけていました。  そんな折、わが家の郵便ポストに一枚のチラシが……。日本洗車技術指導協会がポスティングしたもので、すぐに求人募集のチラシだとわかりました。仕事の内容よりも、「70歳でも大歓迎」という鮮やかな文字に目を奪われました。  毎日が日曜日のような生活がずいぶん長く続いたので、いまさらフルタイム勤務は無理だと思っていましたが、日本洗車技術指導協会が提示した1日5時間、1週間で2〜3日働けばよいという勤務形態や、「徒歩で通勤できる方」という条件など、私には最適の職場だと思い、迷わず電話しました。  日本洗車技術指導協会は、代表理事の上谷(かみや)光彦さんが、シニア層の働き口として開拓した新ビジネス。東京・神田でシェアオフィスを展開する上谷さんは、定年退職者のニーズを敏感に察知し、高齢者の経験を活かしつつ身体の負担も少ないビジネスを立ち上げた。 自分の車を洗うように心を込めて  電話で問い合わせた翌日に、現場となる川崎国際生田(いくた)緑地(りょくち)ゴルフ場の駐車場へ出向き、その場で採用していただきました。定年後の趣味は近所の散策ぐらいでしたが、生田緑地はまさに私の散策コースでした。  私は「運命」ということはあまり考えない人間ですが、いまの仕事との出会いはまさに運命的でした。縁あって、第二の人生に足をふみ出すことができたのです。ほんとうにありがたいことだと思っています。  洗車というと体力が必要で、高齢者に向くのだろうかと思う人も多いでしょうが、協会が推奨しているのが無水洗車です。文字通り水を使わず、オリジナルの洗車剤を霧吹きで吹きつけ、後はクロスで丁寧に磨いていきます。片手に洗車剤、片手にクロスというのが基本的な格好で、水が入った重いバケツを持つこともなく、「70歳でも大歓迎」という言葉はほんとうだと思いました。  私たちの世代にとっては自家用車を持つことはステータスであり、洗車も楽しみの一つでしたから、洗車という仕事に抵抗はありませんでした。自分の車を洗う延長線上にあるのだと思えばなんということはありません。  出勤は週2、3日で、平均して一日に1、2台を受け持ちます。ホイールの部分まで丁寧にクロスで磨くので、お客さまにはとても喜ばれます。感謝の言葉をいただくこともあり、やりがいのある仕事だと思います。  ゴルフ場の駐車場ですので、大きい車や高級車を担当することもあり、こういうときに試されるのが集中力です。私はかつてミスをすれば命取りになるような製造現場にもいましたので、集中力は鍛えられています。  また、修理の出張サービスなどの経験は、いま、お客さまと向き合うときに活かされています。最初に入社した会社が不測の事態にならなければ定年まで働いていたでしょうが、さまざまな経験を積んできたからこそ、新しい仕事にも出会えたのだと、前向きに考えています。  おかげさまで大病をしたこともない頑健(がんけん)な体は、洗車の際に大いに役立っています。時には筋肉痛になることもありますが、これも働いていることの実感の一つです。  協会での勤務はいまのところ「何歳まで」という年齢の上限がないので、心を込めてお客さまの車を磨きながら、生涯現役の人生を磨き続けていきたいと思っています。 【P34-37】 高齢者の現場 北から、南から 第76回 奈良県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー※(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 奈良県 社員は宝。だれもが安心して働き続けられる環境を整えたい 企業プロフィール 有限会社近藤豆腐店(奈良県天理市) ▲創業 1950(昭和25)年 ▲業種 豆腐・豆腐関連製品の製造販売業。主要商品は、豆腐(もめん・きぬ)、おぼろ豆腐、豆乳、厚揚げなど ▲従業員数 35人 (60歳以上男女内訳) 男性(3人)、女性(9人) (年齢内訳)60〜64歳 4人(11%)       65〜69歳 7人(20%)       70歳以上 1人(3%) ▲定年・継続雇用制度 定年60歳。定年後は、希望者全員を70歳まで再雇用している(今後、定年の引上げなどを予定) 国産大豆と伊豆大島海精にがりを使用するこだわりの豆腐づくりに、社員が心を合わせて取り組んでいる 65歳超継続雇用の相談が増加  奈良県は、人口約134万人。近畿地方のほぼ中央に位置し、北西部に奈良盆地、北東部に大和(やまと)高原、ほかに大台ケ原(おおだいがはら)や近畿地方最高峰の八はっ経きょうヶが岳たけ(八剣山(はちけんざん)などの紀伊山地が広がり、海岸に接しない内陸県です。  近年では、最新技術を有する一般機械、電気機械の産業集積が進んでいますが、一方で筆や墨、酒、茶道具、靴下・ニットなどの繊維製品、製薬、プラスチック製品、スポーツ用品など、長い歴史を持つ多くの地場産業が続いています。また、地場産品の吉野杉、柿の葉すし、奈良漬け、吉野葛(くず)、赤膚焼(あかはだやき)なども有名です。  2017(平成29)年6月1日現在の奈良県の「定年制廃止」、「65歳以上定年企業」の合計の割合は25・2%で全国平均を上回っており、当機構の奈良支部高齢・障害者業務課の山田直樹課長は、「事業主からの定年引上げや継続雇用延長に関する相談・助言の要請が増えています。2018年度から定年引上げ・継続雇用延長の制度改善提案事業に取り組むなか、奈良県において特に制度改善が進んでいる分野として、福祉介護事業があげられ、この分野では65歳以上定年と66歳以上希望者全員継続雇用の導入の割合が、46・5%に達しています」と近況を話します。  今回、同支部のプランナー・森村和枝さんの案内で訪問した「有限会社近藤豆腐店」も、定年年齢の引上げに向けて制度の改定に取り組んでいる会社です。 こだわりの豆腐をつくり続ける  有限会社近藤豆腐店は、1950(昭和25)年の創業以来、豆腐や豆腐関連製品の製造、販売を手がけています。  「良いものをできるだけ安く」をモットーに、こだわりの豆腐づくりを継承。原材料に国産大豆と伊豆大島産の「にがり」を使用し、製造工程で時間と手間を惜しまない豆腐づくりを行い、主に関西圏のスーパーマーケットで販売。奈良やその周辺の食文化を支えるホテルや割烹(かっぽう)などにも届けているほか、奈良町で豆腐料理店「奈良町 豆腐庵こんどう」を直営し、地域住民をはじめ観光客にも親しまれる人気店となっています。  従業員数はパートタイマーを含め35人。うち60歳以上が12人と約3分の1を占めますが、「若い方の採用もできています」と同社代表取締役社長の柳生(やぎゅう)晃央(あきお)さん。現在、最も若い従業員は20歳、最高齢者は70歳です。  豆腐製造は毎朝4時から、一番人気のきぬ豆腐をはじめ、もめん豆腐、厚揚げやひろうす(がんもどき)などの揚げ物、豆乳などの定番商品と季節の商品をあわせて25〜30種類をつくります。一日の製造量は、きぬ・もめん豆腐だけで約1500丁。  取材時には、柳生社長の案内で豆腐ができるまでの工程とポイント、機械の説明をしていただきました。機械化が進んだいまでも、細部では人の判断が重要になるため、同社では綿密にデータを取ることで、だれもが適切な判断ができるよう注力するなど、よいものをできるだけ効率よくつくることを追求し、常に努力している姿勢が伝わってきました。 定年引上げの思いと取組み  森村プランナーは、県内の企業を訪問するなかで2017年10月、近藤豆腐店を初めて訪問し、柳生社長と面談。「すでに高齢者雇用の取組みは進んでいました。当時、柳生社長は2016年に先代(現会長)から社長を引き継いで間もないころで、従業員を大切にするという先代の考え方を受け継ぎ、みんなが働きやすい環境をどうつくっていくかを真剣に考えておられました」と話します。  そこで森村プランナーは、「働く者にとって雇用が確保されることが精神的にも、経済的にも重要であるとの考えから、年金の支給開始年齢が引き上げられるなかで定年延長という形で雇用の安定を図ることをすすめました。現制度は定年60歳、継続雇用70歳までですが、70歳を超えても働く意欲と能力のある人にはできるだけ長く続けてもらう。特に、こだわりを持ってよい商品づくりに取り組んでいる会社であり、熟練者が安心して働ける環境を整えることが、安定した経営につながると話されていました」と振り返り、「また、労働環境や就業規則の見直しについても相談したいとのご要望があり、応じています」と近況を語ります。  柳生社長は、「人は宝。従業員の生活があって会社がある。従業員を大切にすることが大前提であると先代から引き継ぎました。また、森村プランナーのお話を聞き、現行の60歳定年では50代後半から『もうあと1〜2年で終わり』という気持ちになってしまいますが、65歳定年なら60代になってからもその先を考えることができるとうかがいました。そこで安心して働ける環境整備の一つとして、定年を65歳に引き上げ、75歳まで雇用を継続できる制度の確立に向けた取組みをはじめました。現制度では、再雇用後の賃金は定年前と変わりませんし、年齢にかかわらず昇給もあるので、定年の引上げはむずかしいことではありません。ただ、65歳以上の従業員は勤務時間などを柔軟にすることが必要となります。現在はその都度対応しているので、そこもきちんと制度化したい」と定年引上げとそれに関する制度の見直しについて話してくれました。  同社では、社内コミュニケーションを大切にし、月一回、全体ミーティングを開いています。「上からの一方通行でなく、社長も社員もパートも、年配の人も若い人も、みんなが思ったことをいい、仕事の改善点、提案内容を出し合っています。また、そうした積み重ねや日々の会話をするなかで社長は社員一人ひとりをよく見て、大切にしています」と森村プランナー。今回の訪問でも、そのような雰囲気が感じられました。 70歳を過ぎても働ける制度はありがたい  3人の高齢従業員の方にお話をうかがいました。増田俊正(としまさ)さん(68歳)は、商品の配送を担当しています。ガソリンスタンドに40年間勤務し、ガソリンや灯油の配達をしていましたが、閉鎖が決まり、新たな勤務先を探して近藤豆腐店に出会い、入社して丸4年になります。  増田さんの主な仕事は商品をスーパーに届けることで、大阪、京都へも配達しています。「週6日、朝6時半に出勤しています。日によって違いますが、1日20カ所ほどに商品を届け、戻ってから翌日の準備をして仕事を終えます。大事な商品を安全、正確に届けることを大切にしています」と増田さん。柳生社長は「増田さんは、配送先でのあいさつやコミュニケーションも上手で、若い社員のお手本になってくれています。当社にとって営業面でも大事な存在」とその活躍を語ります。  増田さんは「届け先で品出しをしているとき、お客さまから『近藤さんのお豆腐はおいしい』といっていただけるのがやりがいになっています。続けられるうちは続けたい」と話してくれました。  市川直哉さん(70歳)も、配送を担当し、週6日、朝6時半から勤務しています。市川さんの役割は奈良市内のスーパー、ホテル、飲食店などへの配送です。長く商社に勤めて営業や管理などの職務を経験しているだけに、「市川さんはさまざまなことを知っているので頼りになります」と柳生社長。前職を59歳で退職し、「早起きは得意」と近藤豆腐店に入社して11年になります。  「配送先の店の厨房に入ることもあるため、衛生面のほか、みなさんの仕事の妨げにならないように気をつけています。社内では一番年上ですが、配送先の飲食店やスーパーではさらに年齢の高い人が働いているのを目にします。今後当社でも、70歳以降も継続して働ける制度を整備すると聞いており、ありがたいと感じています。制度ができると先のことが明確になり、目標にすることができます。できれば75歳まで勤務を続けたい」と市川さんはにこやかに話します。  北出(きたで)しづよさん(68歳)は近藤豆腐店の創業者を父に持ち、現会長の妹にあたります。歯科衛生士の仕事を経て20歳から商品の配送を手伝い、その後、事務なども担当。3年前からピッキングを担当し、週6日、朝6時から商品の箱詰めや袋詰め、出荷準備をしています。  「しづよさんは、工場併設の販売店前の花や樹木の手入れをしてくれるなど、柔軟な動きができ、かつ社内のムードメーカーです」と柳生社長。取材時は、揚げ出し豆腐のパック詰めを3人で手際よく進めていました。空になったカートの片づけなど力のいる作業は男性社員が行い、北出さんたち女性は商品のパック詰めや仕上げ作業を素早く進めていきます。  現在の仕事で心がけていることは「衛生面の注意と時間に間に合わせること」と北出さん。「父の代から味を大切にする姿勢が続いており、ここで働いてきてよかったと思います。母は90歳近くまで事務所で伝票整理などの仕事をしていました。私も、まずは70歳を目標にがんばります」と笑顔で語りました。  柳生社長が目ざしているのは、一人ひとりがやるべきことを行い、安全と品質を守り、プロとしての磨きをかけて新たなことにも挑戦すること。また、今後も安心しておいしく食べていただける豆腐をつくり、みんなで笑顔のある会社にすること。「森村プランナーから育児、介護、治療と仕事の両立についてのアドバイスを受け、これからも従業員が働きやすい職場づくりに取り組んでいきたい」と、抱負を語りました。 (取材・増山美智子) ※65歳超雇用推進プランナー……当機構では今年度から、高年齢者雇用アドバイザーのうち経験豊富な方を65歳超雇用推進プランナーとして委嘱し、事業主に対し、65歳を超えた継続雇用延長・65歳以上への定年引上げなどにかかわる具体的な制度改善提案を中心とした相談・援助を行っています 森村和枝プランナー(65歳) アドバイザー・プランナー歴:24年 [森村プランナーから] 超高齢社会においては、「人にとって、よい仕事に巡り合い、必要とされ働き続けられることが人生の一番の幸せ」、「会社にとって、貢献意識や意欲、能力、経験のある人がいることが会社発展の一番の道筋」と考えます。プランナーの仕事はこの「人」と「会社」を結びつけることにあるとの視点から、高齢者が働き続けられる職場環境や制度の整備を提案しています。 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆奈良支部の山田課長は、森村プランナーについて「人事労務のエキスパートとして長年にわたりアドバイザー・プランナー活動を行い、事業主から相談・助言の要請や企画立案サービス(企業からの要請に基づき、具体的な改善策を提案する取組み)の依頼が多く寄せられています。特に、高齢者雇用の人事施策には多角的なアイデアをもっており、企画立案サービスの依頼者から高く評価を得ています。また、県下の事業主と学識経験者による当機構の共同研究にもたずさわり、技能継承や高齢者の役割の明確化など高齢者雇用に関する取組み指針などの方向性を提示しています」と話します。 ◆当支部では、5人の高年齢者雇用アドバイザー・プランナーが多様な専門性、経験を活かし、2017年度は271社を訪問し、高齢者雇用に関する相談・助言活動を行いました。また、27社から企業診断システムの依頼を受け、1社から企画立案サービスの依頼を受けて実施しました。 ◆相談・助言は無料で行っています。お気軽にお問い合わせください。 ●奈良支部高齢・障害者業務課 住所:奈良県橿原(かしはら)市城殿町(きどのちょう)433 奈良職業能力開発促進センター内    (近鉄「畝傍御陵前(うねびごりょうまえ)」駅より徒歩約12分) 電話:0744(22)5232 柳生晃央代表取締役社長 倉庫で配送の準備をする増田俊正さん 配送と配送車の点検を終えて安堵の表情を見せる市川直哉さん 手際よく揚げ出し豆腐のパック詰めを行う北出しづよさん 【P38-41】 ケーススタディ 安全で健康に働ける職場づくり 高齢労働者が安全・健康に働ける職場づくりについて、労働災害や業務上疾病などの事例をもとに専門家が解説。今回は、中田亨先生に、高齢労働者とヒューマンエラーについて、解説していただきました。 第17回 高齢労働者とヒューマンエラー 国立研究開発法人産業技術総合研究所 中田 亨(とおる) 加齢はエラーを増やすか?  人間は、加齢によって認知や思考といった知的能力が衰えるものだと思われがちです。年を取れば、「ヒューマンエラー」、すなわち間違いが増えるのだというイメージがあります。  しかし、事はそう簡単ではありません。知的能力は使えば使うほど熟達するので、むしろ高齢になるほど能力が向上したり、衰えない場合もあります。  囲碁棋士の杉内雅男九段は2017(平成29)年11月に97歳で亡くなりましたが、その年に公式戦で2勝をあげています。これにかぎらず、囲碁の棋力は高齢になっても衰えにくく、老棋士が数十歳も若い棋士を破ることは珍しくありません。将棋の場合は、囲碁よりも年齢の影響が出やすいといわれていますが、加藤一二三(ひふみ)九段は、引退直前の77歳にして公式戦で勝利を収めています。  ましてや、経験の長さがものをいう仕事では、高齢であることは有利なケースもあります。長年働いてきた高齢労働者は、若手よりはミスを犯しにくいでしょう。明治のころ、職場のリーダーを意味する英語の「フォアマン」という概念に対して、「宿老(しゅくろう)」という言葉があてられました。「老中」や「若年寄」という言葉もあるように、日本では、老い≠ェ肯定的な意味を持っていたのです。  もちろん、知覚能力や筋力は年齢の影響を受けるので、高齢となったこと特有のリスクはあります。  一口に高齢労働者といっても、人によって強みと弱みが異なりますから、「高齢者」だからとひとくくりにせず、個々人に応じて弱点に配慮をし、長所を活かすように工夫しましょう。 高齢労働者の特性とは  加齢にともない、人間は心身の特性が変化します(図表1)。心理的・認知的な面でいえば、新しい物事に慣れにくくなります。かくいう筆者も、学生の時分は、新しい装置に接すると興味津々で勉強し、使い方を習得したものです。しかしいまでは、最新の技術を追うのが面倒になり、興味がわきません。自分が使い慣れた装置で間に合わせようとします。これは一面においては合理的といえます。新しい技術は優れているかもしれませんが、未知の欠点もあるでしょう。自分がよく知っている技術なら、確実に使いこなせるし、性能は最高ではなくとも、仕事に差しつかえない程度にできるはずです。確実性という点でいえば、自分の知っている古い技術は、未知の新技術に勝ります。こうして技術者は新技術を嫌う頑固者になりがちです。  身体能力でいえば、知覚、筋力、持久力、瞬発力、四肢の可動域などで能力が低下します。これは低下が問題というよりも、「低下に気がつかない」ことに危険の根源があります。「昨日できたことが今日できない」ことが事故を呼ぶのであって、「昨日もできなかったこと」には自分自身が無理とわかっているので近寄らないため、事故にはならないものです(図表2)。 事 例 除雪機の使用とヒューマンエラー  高齢者が特に起こしやすい事故について取り上げてみましょう。独立行政法人製品評価技術基盤機構の調査(2017年9月14日付プレスリリース『高齢者の死亡・重傷事故を防ぐために』)では、高齢者が機材などの使い方を誤り、重篤(じゅうとく)な事故にいたるパターンが多いことが指摘されています。ストーブや脚立・はしご、電動車椅子、除雪機などを使う際に、正しい使い方をせず事故が起きています。  労働安全の観点からすると、特に除雪機が注目されます。というのも、除雪は重労働であり、たとえ自宅の周囲の除雪といっても、職場における機械操作に似ているためです。除雪機は家庭用機械にしては馬力も大きく、もはや農機具や建設作業用の機械といえるでしょう。実際、見た目は耕運機に似ています。  除雪機の事故で死亡する人は、ほとんどが高齢者です。使用者が65歳以下の場合には、ほとんど死亡事故にはいたっておらず、年齢の影響が顕著にあらわれます。  除雪機の事故を分析することで、高齢労働者の職場での事故がどのようにして発生するか、についてのヒントが得られると思います。除雪機での死亡事故には次の二つのパターンが考えられます。 事例@ 自走している除雪機と壁の間に体をはさまれる(図A)  除雪機を自動で前進させておいて、自分はその前に回り込み、雪を除雪機の前にかき集める、という誤った使い方をする人がいます。こうすれば、人が雪をどんどん除雪機に吸い込ませて処理することができ、仕事が早いのです。  しかし、この使用法は危険で、除雪機は強い馬力で前進を続け、作業者にぶつかってもお構いなしです。これにより、除雪機と壁など障害物との間に高齢作業者がはさまれてしまうのです。  除雪機を自走させると、いざというときに止まってくれません。除雪機は本来、運転者が操作レバーを握っていないと動かない安全装置がありますが、レバーをひもで縛(しば)るなどの「タンパリング」(規則違反行為)によって安全装置を無効にして使用するケースがあります。  高齢者でない場合、このパターンでは死亡に至ることはまずありません。若いうちは鋭い知覚や強い筋力によって事故を回避できるため、能率を上げようとしてタンパリングを行います。そして高齢になったとき、死亡事故が起こる、という構造になっています。「長年、大丈夫だったから」という自負心が高齢者の油断を誘うのです。  若くても、操作に自信がない、という人は、タンパリングをしません。むしろ上手な人ほど大きな事故を起こすという「リスク・ホメオスタシス」(上手でも下手でもだれでも同じ程度に危ないという現象)が見られます。 事例A 後ろ歩きで除雪機を後退させているときに、ひかれたり、壁にはさまれる(図B)  除雪機を後退させるとき、作業者は前方を向いたまま操作レバーを握っていなければならないので、どうしても後ろ歩きになります。これはやりにくくて危険ですが、Uターンできない狭い場所での作業の場合仕方がない一面もあります。しかし、この後方に進行中に転んでしまい、除雪機が後退をやめなかった場合、作業者の体の上に乗り上げたり、壁にはさまれたりして、死亡事故が起こります。  除雪機の機種によっては、人が機械の下に入りそうになったら安全バーに体があたり、自動的に後退が止まる仕組みもありますが、それでも高齢者の場合は事故につながるケースもあります。高齢者は体が小さく軽い場合が多いので、安全バーに触れず除雪機が止まらないなど思わぬ形で、はさまれたり、ひかれたりすることがあるのです。  また、高齢者の場合、除雪機の操作盤から何本も突き出しているレバーを即座に使いわけるなどの、認知機能にともなう瞬発力も弱まります。操作を間違え、後退を止められないケースも見受けられます。  このような事例から職場の安全を考えると、成人男子を標準的な作業者として想定している職場環境が、高齢労働者にとってはリスクになるのです。 記憶力の低下も工夫次第で予防できる  加齢による記憶力の低下も、高齢労働者の安全を考えると気がかりなところですが、記憶力それ自体よりも、記憶術や職場の整理整頓の方が、安全の鍵を握っています。  記憶力は、やり方次第ではありますが、加齢があろうが実質的には衰えません(図表3)。実際、落語の老練な名人は、長い話を丸々記憶しています。ストーリーという一本道の順序で、意味を持って並べてある事柄なら、比較的楽に記憶できます。  逆に、意味に乏しく、互いに前後関係のないバラバラな要素を覚えるのは、高齢者にかぎらず、だれにとっても大変なものです。「F、3、Q」などの記号の集まりは、若い人でも長くは覚えていられません。  このバラバラな要素に意味が加わると、少し簡単になります。「犬、梅、月」といった三つぐらいの名詞なら、しばらくは覚えていられます。  一本道の順序があれば記憶はさらに強まります。例えば、「犬が梅に登り月にほえた」という話に仕立てて覚えると忘れにくくなります。人間の記憶のメカニズムは、一本道が性に合うようです。調味料は「さしすせそ」、つまり砂糖、塩、酢……といった順で入れるべきといわれているように、「さしすせそ」と唱えれば、「まずは砂糖だ、忘れるな」と自分をコントロールできますから、取りこぼし、やり忘れがなくなります。  高齢労働者のエラーは、こうした工夫で十分に防ぐことができるのです。 変わる高齢者像  昔の高齢労働者と、いまの高齢労働者はずいぶん異なります。技術の進歩によって、できることが急速に広がっているためです。昔なら、高齢労働者がキーボードを使って電子メールを書くことはなかなかむずかしかったのですが、いまではスマートフォンやAIスピーカーに話しかけるだけで、メールのやり取りができます。特別な技能や、大きな投資はいりません。スマートフォンとSNSアプリがあればだれでも、業務の報告文作成や、写真撮影、連絡がずいぶん楽にできる状況にあります。情報化という強みを高齢労働者も利用して、効率と安全をより高めましょう。 〔参考資料〕  消費者庁ニュースリリース「ご家族など身近な方で高齢者の事故を防止しましょう!」(平成29年9月13日) 図表1 高齢労働者の特性 能力 加齢にともなう影響 対応策 囲碁や将棋の棋力 若いころの水準をかなり持続する人もいる 修行を続ける 新しいものへの適応力 弱まる 仕事が安全かつ能率的にできているのであれば、古い流儀を変えない 知覚や運動などの身体能力 弱まる 自分の弱点を知り、危険を避ける ※筆者作成 図表2 高齢労働者の事故への心構え リスク観 実際 対応策 「危険はあるが、昨日までできていたから、今日も大丈夫だろう」 身体能力の低下により、事故に遭遇する 正規の使用法の順守、職場の整理整頓 「私は上手なベテランで、いままで大きな事故に遭遇していない」 タンパリング(規則違反行為)を改めない 違反しないように見張り、単独行動をさせない 「安全装置が作動するはずだ」 安全装置が、高齢労働者の身体に適合しないおそれ 安全装置が個々人の身体に適合しているか再点検 ※筆者作成 図A 前進してくる除雪機と壁にはさまれる 図B 後退中の除雪機にひかれる 図表3 記憶の対象とむずかしさ 対象の特徴 仕事での例 記憶の難易度 無意味な記号で、順序が不定のもの 納品物の番号を次々とコンピュータに入力する 若い人でも困難で、抜けやダブリが起きやすい 意味のとれる事柄だが、順序は不定のもの 作業場に何種類かの道具を忘れずに持っていく やや容易だが、抜けがありえる 意味があり、順序が定まった事柄 上記の道具のセットを歌にして抜けがないか点検する だれでも容易 ※筆者作成 【P42-45】 知っておきたい 労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第5回 正社員と有期雇用労働者の賃金の相違(ハマキョウレックス事件最高裁判決) 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q 正社員と有期雇用労働者の賃金の相違について教えてほしい  当社では、正社員と有期雇用労働者といった雇用形態の従業員がいます。業務内容や業務にともなう責任の程度には相違ないのですが、有期雇用労働者には、配転や出向といった規定を適用せず、長期的な雇用を前提とした賃金体系を採用していません。そこで、有期雇用労働者を正社員と比べて賃金を低くしておきたいのですが、問題ないでしょうか。 A  有期雇用労働者と正社員の労働条件の相違について争われたハマキョウレックス事件の最高裁判決が平成30年6月1日に下されました。この判決では、契約期間の有無を理由とした労働条件の相違に関する一般的な判断が示されています。労働条件の差異を設けるにあたっては、基本給や個別の手当ごとに慎重にその理由を検討することが求められます。働き方改革関連法の成立をふまえて、同一労働同一賃金に関して慎重な対応が求められていくでしょう。 1 正社員と有期雇用労働者の労働条件  正社員のほかにパートタイム労働者や契約社員など雇用形態が異なる労働者を雇用している企業も多いでしょう。パートタイム労働者の場合は、労働時間に相違があり、それにともなって業務の内容や責任の程度も異なることが多いかと思われますが、正社員以外の契約社員の場合には業務内容やそれにともなう責任の程度に相違がない状況が生じやすいでしょう。  正社員と契約社員を区別するポイントは、多くの場合、労働契約の契約期間の有無になります。有期雇用労働者である契約社員について、労働条件の相違、特に賃金や手当の支給を相違させることは許されるのでしょうか。労働条件に相違を設けるとしても、その限度はないのでしょうか。 2 労働契約法20条の解釈  前回紹介した長澤運輸事件と同日の平成30年6月1日に最高裁判決が示された「ハマキョウレックス事件」では、期間の定めのある労働者(以下「契約社員」といいます)と、期間の定めのない労働者(以下「正社員」といいます)の労働条件の相違が、労働契約法20条に違反するものとして争われた事件です。具体的な労働条件の相違は図表に定める通りです。  法的な問題点は、@賃金や手当に差異を設けることが、不合理な内容であると認められるか否か、A労働契約法20条違反の効果(正社員と同一の地位にあることの確認が認められるか、損害賠償責任のみで救済されるのか)、といった点です。  今回も問題となるのは、労働契約法20条の解釈とその法的な効果になります。  (期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止) 第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。  前回もご紹介したとおり、労働契約法20条は、次の三つの要素を考慮して不合理さを判断する旨定めています。 (a) 労働者の業務の内容および業務にともなう責任の程度(以下「職務の内容」)といいます) (b) 当該職務の内容および配置の変更の範囲(以下「人材活用の仕組み」といいます) (c) その他の事情  ハマキョウレックス事件の最高裁判決は、労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違がありうることを前提に、職務の内容、人材活用の仕組み、そのほかの事情を考慮して、労働条件の相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、上記の三つの要素の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解されました。  ポイントは、「均等」ではなく、「均衡」のとれた処遇を求める規定と解されたことです。「均等」とは、差異がなくまったく等しいことを意味しており、近年の労働関連法令においても「均衡」と「均等」は区別して用いられていますので、最高裁もこの区別は前提としているものと考えられます。  例えば、内閣府が公表している働き方改革実行計画では、同一労働同一賃金ガイドライン案の概要においては、均衡だけでなく、均等にもふみ込んだものとしている旨を表明しており、その区別を前提としています。  ハマキョウレックス事件で認定された事実関係は、三つの要素のうち(a)職務の内容は、正社員と契約社員の間に特段の相違はありませんでした。  一方、(b)人材活用の仕組みについては、正社員は、出向などにより全国規模の広域異動の可能性がありますが、契約社員にはそのような定めはありませんでした。また、正社員は、等級役職制度が採用され、将来中核をになう人材として登用される可能性があるとされましたが、契約社員にはこのような制度は採用されず、中核をになうことを予定されていません。この事件における等級役職制度とは、職務遂行能力に見合う等級へ格付けし、教育訓練の実施による能力開発と人材の育成、活用に資することを目的とした制度と認定されています。  したがって、ハマキョウレックス事件では、(a)は相違がないものの、(b)は相違点があるとされたことに特徴があります。長澤運輸事件とは異なり、(c)その他の事情について、特筆するような事情はあげられていません。  しかしながら、「労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては、労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。」と判断されていることから、長澤運輸事件における考慮事項のように労使間の交渉などを考慮することを否定するものではありません。  ハマキョウレックス事件の最高裁判決でも、労働契約法20条が定める三つの要素については、幅広く総合的に考慮していくという方向性は同様です。 3 賃金や手当の比較の方法  ハマキョウレックス事件の特徴として、第一審では、職務内容に大きな相違がないことを前提にしつつも、人材活用の仕組みが異なることから、通勤手当以外については個別の理由を検討することなく、「被告の経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえない」と一括して判断していましたが、控訴審および上告審では、手当ごとに比較されています。比較の方法について、個別の手当ごとに比較して不合理な差異か否かを判断していますので、長澤運輸事件が判断した「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。」との判断と同様の手法によっていると考えられます。特段の記載がないのは、控訴審自体が「個々の労働条件ごとに判断されるべきものである」と判断していたことを是認しているからに過ぎず、異なる基準を採用したものではないと考えられます。 4 各賃金項目に関する判断  各種の手当ごとの判断の理由は次の通りです。住宅手当以外は、いずれも不合理な相違であると判断されており、手当の判断は、ほとんど「均等」待遇を求められるに等しい厳しい傾向が見られます。  住宅手当は、人材活用の仕組みを考慮して、正社員の方が転居をともなう配転が予定されていることから住宅に要する費用が多額となり得るとして、不合理ではないと判断されました。  皆勤手当は、契約社員と正社員の職務内容に相違がない以上、出勤する者を確保する必要性は差異がなく、契約社員は昇給しないことが原則であり、皆勤の事実を考慮して昇給が行われた事実もうかがわれないことから、不合理と判断されました。  無事故手当は、優良ドライバーの育成などの目的が人材活用の仕組みの相違から生じるものではないため、不合理であると判断されました。  作業手当は、作業そのものを金銭的に評価して支給される性質であるところ、人材活用の仕組みの相違が作業の金銭的評価の相違を導くことにはならないとされ、不合理と判断されています。  給食手当は、勤務中に食事を取ることを要する労働者に対して支給すべきとされ、不合理と判断されました。  通勤手当の相違については、労働契約の期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではないことから、不合理であると判断されました。  正社員との基本給や賞与、退職金、家族手当の相違については、次項で解説する労働契約法20条違反の法的効果と関連します。 5 労働契約法20条違反の法的効果  労働契約法20条違反がある場合に、正社員と同じ地位を認めるべきというのが、契約社員からの主張でした。基本給や賞与、退職金の相違や現在支給対象となっていなかった家族手当などについては、正社員と同じ地位を認めてもらえなければ救済にならないというのがこの主張の背景にあります。  最高裁はこれを認めませんでした。もしこれを裁判所が行ってしまうと、法律に記載されている以上の救済を裁判所が創設することにつながってしまう点が背景にあります。また、就業規則も別々に作成されていることから、正社員の就業規則を適用するという解釈も採用しませんでした。  結局、労働契約法20条違反の結果は、不法行為に該当し、損害賠償請求が可能であると判断されました。  そのため、基本給、賞与、退職金、家族手当に関しては、正社員との差額などが損害と認められることはなく、賠償責任の対象とはなりませんでした。  本件の特徴は、人材活用の仕組み以外の考慮事由がほとんどなかったことにあるといえます。長澤運輸事件では、定年後の再雇用、労使間交渉、調整給による労働条件低下への配慮などがありましたが、これらの事情はあてはまりません。  同一労働同一賃金に関する争点については、ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件を合わせて検討することになろうかと思われますが、各種手当の支給目的に即した支給要件の設定や相違する理由を文章化して説明を試みるといった方法で検討してみるべきと考えられます。 6 労働関連法の改正  有期雇用労働者の救済方法に関する最高裁の判断は、法律の明文にないことが主な理由となっていることから、法律に救済方法が明記された場合には、正社員と同一の地位を認めるなどの救済方法も視野に入ってきます。働き方改革の一環として、実効性ある救済の創設も予定されています。  働き方改革関連法の改正では、行政による履行確保措置※1やADR※2(裁判外紛争解決手続)の整備は進みましたが、裁判所(司法)による救済方法の拡大については直接触れられてはいません。  しかし、パートタイム労働法の対象者に有期雇用労働者を含め、職務内容や人材活用の仕組みが同一の有期雇用労働者について、基本給、賞与そのほかの待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならないと規定され、均等待遇と解釈しうる規定とされました(改正後パートタイム等労働法第9条)。  また、職務内容などが同一とまで評価できない場合であっても、個々の労働条件について、待遇の性質およびその目的に照らして適切と認められるものを考慮して不合理と認められる相違を設けてはならないと規定されました(改正後パートタイム等労働法第8条)。  基本的な考え方は、最高裁の判断を敷衍(えん)できると思われますが、今後、有期労働契約者の労働条件の相違については、労働契約法20条ではなく、これらの改正法が適用されることになると考えられます。 ※1 行政による履行確保措置……正社員との労働条件の相違などの説明義務が設けられ、違反に対する公表措置などが定められた ※2 ADR……裁判外紛争解決手続の略称。学術経験者などから選ばれた3名の委員からなる紛争調整委員会による調停手続により労働紛争の解決を目ざすことができる 図表 ハマキョウレックス事件の契約社員と正社員の労働条件の相違について 基本給 無事故手当 作業手当 給食手当 住宅手当 皆勤手当 通勤手当 家族手当 賞与(一時金) 退職金 正社員 月給制 定期昇給あり 1万円 1万円 3500円 2万円 1万円 5000円(原告と同じ市内居住の場合) あり あり(会社の業績に応じる) あり(5年以上勤務した場合) 契約社員 時給制 定期昇給なし。 ただし、会社の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがある。(原告は、時給1150円から1160円に上がったことがある。) 規定なし 規定なし 規定なし 規定なし 規定なし 最大3000円 (平成26年1月以降は正社員と同一に変更) 規定なし (原告は支給対象外) 原則なし 会社の業績及び勤務成績を考慮して支給することがある 原則なし 第一審 法または就業規則による補充は認められない 合理的 合理的 合理的 合理的 合理的 不合理 合理的 合理的 合理的 控訴審 法または就業規則による補充は認められない 不合理 不合理 不合理 合理的 合理的 不合理 法または就業規則による補充は認められない 最高裁 法または就業規則による補充は認められない 不合理 不合理 不合理 合理的 不合理 不合理法 または就業規則による補充は認められない ※職務の内容及び業務に伴う責任の程度については相違がないことが前提とされている ※正社員については配転出向などの規定があり、等級役職制度が採用されているが、有期雇用労働者にはそれらの規定や制度は設けられていない 出典:著者作成 【P46-47】 高齢社員との「ギャップを埋める」「相手に伝わる」コミュニケーション  職場の高齢者雇用が進むと、高齢社員と周囲の関係も変化し、そうしたなかで起こるすれ違いがトラブルに発展するケースも少なくありません。本連載では、高齢社員を含む職場の従業員が、ともに気持ちよく働いていくためのコミュニケーション術を紹介します。 特定非営利活動法人しごとのみらい 竹内 義晴 第5回 ベテラン世代の「本音を引き出す」質問術  高齢社員と世代間ギャップをもっとも多く感じるのは、「相手の言動が理解できない」ときではないでしょうか。  例えば、ある仕事にそれなりの経験がある人は、「〇〇というものはこうするものだ」、「昔からこうやってきた」、「だから、あなたたちもそうしなさい」というようないい方をすることがよくあります。けれども、「なぜそうするのか?」、「その理由は何か?」がわからないとき、若い世代にとっては軽いストレスになり、世代のギャップを感じます。  逆に、「いまの時代はそうじゃありませんよ」、「そういうやり方は古いですよ」というように、若い世代の常識を一方的に押しつけても、ギャップが縮まることはまずありません。  そこで今回は、世代間ギャップを縮める「質問」のスキルについて解説します。 ギャップが生まれる仕組み  世代間ギャップを縮める方法を理解するうえで、私たちが言葉を通じて第三者とコミュニケーションする際の特徴を知っておくと、「コミュニケーションギャップが生じる理由」と「ギャップを縮めるためには何をすればいいか」が見えてきます。その特徴とは、「人は、体験のすべてを言葉にできない」ということです。  例えば、あなたは昨夜、同僚のAさん、Bさんと食事に行く予定だったとします。けれども、Bさんは急な残業が入って行けなくなり、Aさんと二人で行くことになりました。あなたはレストランでナポリタンとサラダ、ビールを注文。そしてAさんとの会話を楽しみました。  翌日、あなたはBさんから「昨日はどうだった? 何を食べたの?」と聞かれました。あなたならどう答えるでしょうか。一般的には、実際に食べた「ナポリタンとサラダ、ビール」とはいわず、「パスタ」や「イタリアン」のように、ざっくりと答えることが多いでしょう。  このように、人は体験を言葉にするとき、体験のすべてを言葉にするわけではありません。もちろん、事細かに説明することもできなくはありませんが、これにはかなり意識が必要で、ざっくり説明したほうが話は端的に伝わりやすいのです。そのため、無意識に情報を減らして(削除して)「ざっくりと」伝えるのです。  いい方を変えると、体験を言葉にすると「あいまいになる」ともいえます。食事の会話ならあいまいなまま話してもさほど問題はないでしょう。けれども、重要な仕事の会話をするとき、高齢社員に「〇〇というものはこうするものだ」、「昔からこうやってきた」、「だから、あなたたちもそうしなさい」とだけいわれても、共通の認識が図れず、意思疎通がむずかしくなります。これが、コミュニケーションギャップが生じる「仕組み」です。  また、世代が異なると、考え方や価値観のギャップが大きいため、それによって言動も異なるので、高齢社員との距離をますます感じてしまいます。 言葉にできないことを引き出すのが「質問」  高齢社員と共通の認識が図れず、意思疎通がむずかしいと感じた場合は、高齢社員の言葉には表れていない、削除された情報を取り戻す必要があります。その手掛かりとなるスキルが「質問」です。  「どうしてそうお考えなのですか?」、「そうすると、何がいいのですか?」のように確認します。すると、相手は「それはね……」のように、いままで言葉にしていなかったことを口にしてくれるでしょう。  ときには、「いや、それはそういうものだからやればいいんだよ」といわれてしまうこともあるかもしれません。けれども「納得して仕事がしたいので、ぜひ教えてください」のように伝えたり、「〇〇さんは、なぜそうしようと思ったのですか?」のように質問をすることで、相手が言葉にできていない背景を知ることができます。「なるほど、だから〇〇さんはあのような言動をするんだな」……言葉に表れていない情報を共有できれば、コミュニケーションギャップを縮めることができます。  質問のもっともシンプルなスキルは5W1Hです。5W1Hとは「いつ(When)」、「どこで(Where)」、「だれが(Who)」、「何を(What)」、「なぜ(Why)」、「どのように(How)」の頭文字をとったもので、ビジネスの世界では有名なスキルです。「なぜ、そう思うのか?」、「いつからそう思っているのか?」、「だれに聞いたのか?」、「どのような体験に基づいているのか?」。こうした質問により、相手の考えや行動の背景にある「省略された情報」を取り戻すことができます。  質問するときに注意すべき点は、相手を「問いつめない」ことです。世代間ギャップを感じているとき、「なぜ、〇〇さんはああいう言動をするのだろう?」といった反感を抱いていることも少なくありません。すると、「なぜ、あなたはいつもそうなの?」、「なんで?」、「どうして?」などの、問いつめるような質問をしてしまいがちです。  大切なのは、「言葉になっていない情報を引き出し、相手がそのような言動をする背景を知る」ことです。 情報が共有できた分、ギャップは縮まる  質問には、「不明点を明確にする」という役割があります。もし、高齢者との間に世代間ギャップを感じたときは、「高齢者は頭が固くてダメだ」と嘆なげいたままにするよりも、「なぜ、そう考えるのか?」を質問し、相手の考えを聞き出したほうが、共通認識を図れます。そして、共通認識を図った分だけ、ギャップは縮まります。  「人は、すべての体験を言葉にできない」という特徴がある、だから質問する―これを理解し、実践すれば、高齢社員の考えを理解でき、働きやすい職場にすることができるでしょう。質問力はちょっとしたトレーニングで身につけることができます。あなたの職場でも取り入れてみてください。また、今回紹介した「コミュニケーションギャップの仕組み」を社内で共有するのもよい方法だと思います。 たけうち・よしはる 1971(昭和46)年生まれ。特定非営利活動法人しごとのみらい理事長。職場の人間関係などを要因とする課題を解決し、ビジネスパーソンが楽しく働くためのコミュニケーションに関する講習、カウンセリングなどに従事。『職場がツライを変える会話の力』(こう書房)、『うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル』(秀和システム)ほか著書多数。 【P48】 日本史にみる長寿食 FOOD 300 ナスで老化抑制効果 食文化史研究家● 永山久夫 ナス色とサムライブルー   江戸時代、丸々と肥えたナスが、店頭に山になって出まわるころになると、江戸の町には、ブルーの模様に染めた浴衣姿の男女が出歩いて、しゃれたものでした。  ブルーの色こそ、ナス色であり、当時の人たちは、「なす紺(こん)色」と呼びました。猛暑のころであり、町にさわやかな涼風を呼ぶとして、ナス色のブルーがよろこばれたのです。  今年は、サムライブルーのサッカー選手たちの大活躍もあり、日本人は大興奮しました。  酷暑が続くと、スタミナ低下が心配ですが、このようなときこそ、「待ってました」と登場するのが、涼し気なブルーカラーのナス。  まさに旬まっ盛りで、お値段も手ごろであり、料理もかんたん。ナス料理は、暑気払いにぴったりです。  定番は、ナスの味噌炒め。フライパンにオイルをたらし、好みに切ったナスを炒めて、味噌とトウガラシで味をつけるだけ。ブタの挽き肉を加えてもよいでしょう。とてもかんたんにつくれます。ビールにも、ご飯にもあいます。焼きナスにしてショウガ醤油で味つけをしてもよく、ぬか漬けは定番ですし、天ぷらにしても絶品です。 体の酸化を防ぐナス色  ナスの原産はインドで、日本には中国を経由して奈良時代に渡来。水分が93パーセントも含まれていてジューシーなので、炒めものや煮浸(にびた)し、煮物などにしても美味ですが、カリウム以外のミネラルやビタミンには、あまり恵まれていません。  果肉がスポンジ状で、よく油を吸収するため、オリーブオイルなどで料理すると、健康効果の高いオレイン酸や老化を防ぐビタミンEなどもとれます。  ナスで注目すべき成分は、栄養素よりも、むしろ表皮を紺色にしているナスニンという成分。ブドウなどに多く含まれているアントシアニン系の濃い色素で、万病のもとといわれる活性酸素の生成を抑える働きをしています。  「秋ナスは嫁に食わすな」ということわざがあります。嫁いびりというよりも、嫁さんの健康への思いやり。ナスには体を冷やす作用があり、涼しくなる秋に食べ過ぎると体調をくずしやすい。このことわざには、そんな親心があらわれています。 【P49-52】 特別企画 働き方改革関連法が成立 厚生労働省 労働基準局、雇用環境・均等局、職業安定局 施行期日 平成31 年4月1日 ※「時間外労働の上限規制」については、中小事業主は平成32年4月1日から、適用が5年間猶予される自動車の運転業務、建設事業、医師、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業については、平成36年4月1日から施行されます。 ※「中小事業主における月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ」については、平成35年4月1日から施行されます。 ※「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律及び労働契約法の一部改正」「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律の一部改正」については平成32年4月1日(中小事業主におけるパートタイム・有期雇用労働法の適用は平成33年4月1日)から施行されます。 はじめに  「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号。以下『改正法』)」が、第196回通常国会において、本年6月29日に可決成立し、本年7月6日に公布されました。改正法は、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講ずるものです。 労働基準法の一部改正 1 フレックスタイム制(第32条の3および第32条の3の2)  生活上のニーズに合わせた柔軟な働き方を可能とするため、フレックスタイム制の清算期間の上限を3カ月間に延長します。1カ月超の清算期間を定めるフレックスタイム制の労使協定については、行政官庁への届出が必要です。 2 時間外労働の上限規制(第36条および第139条から第142条まで)  長時間労働を防止するため、改正法では、現行の時間外労働規制の仕組みを改め、@時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間としたうえで、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできないこととし、A臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、単月100時間未満(休日労働を含む)を超えることはできないこととします。さらに、原則である月45時間を超えることができるのは、年間6カ月までとします。これらに違反した場合には、罰則の対象になるものです。  ただし、上限規制には、自動車運転の業務や建設事業など、適用を猶予・除外する事業・業務があります。 3 年次有給休暇(第39条第7項および第8項)  年次有給休暇の取得を促進するため、改正法では、使用者は、年次有給休暇の日数が10日以上の労働者に対し、そのうち5日については、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならないこととします。 4 特定高度専門業務・成果型労働制※高度プロフェッショナル制度(第41条の2関係)  時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするため、十分な健康確保措置を講じつつ、労働時間規制等の適用を除外する新たな選択肢として、特定高度専門業務・成果型労働制(以下「高度プロフェッショナル制度」)を創設します。  この制度は、@制度の適用について同意した方であって、A高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして省令で定める業務に従事しており、B職務記述書等により職務が明確に定められ、C年収が省令で定める額(1075万円を想定)以上である方のみが対象です。  また、制度の導入にあたっては、事業場の労使同数の委員会で、対象業務、対象労働者、健康確保措置などを5分の4以上の多数で決議し、行政官庁に届け出ることが必要です。  さらに、この制度では、年間104日以上、かつ、4週4日以上の休日確保等の健康確保措置を義務づけています。 5 中小事業主における月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ(第138条)  中小事業主における月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率は、附則第138条により25%以上に据え置かれていましたが、改正法ではこの規定を廃止し、中小事業主においても大企業と同様に50%以上の割増賃金率を適用することとします。 労働安全衛生法の一部改正 1 産業医・産業保健機能の強化 ア 産業医の活動環境の整備等(第13条から第13条の3までおよび第101条)  産業医がより効果的に活動するため、事業者は、産業医に対し、長時間労働者の状況など産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報を提供しなければならないこととします。  また、事業者は、産業医から受けた勧告の内容等を事業場の労使や産業医で構成する衛生委員会に報告しなければならないこととします。  さらに、産業医による労働者の健康管理等を適切に実施するため、産業医が労働者からの健康相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備等に努めなければならないこととします。 イ 労働者の心身の状態に関する情報の取扱い(第104条)  事業者による労働者の健康情報の収集、保管、使用にあたっては、労働者の健康確保に必要な範囲内で行わなければならないこととします。 2 面接指導等 ア 新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務に従事する労働者に対する面接指導等(第66条の8の2)  使用者は、その労働時間が省令で定める時間を超える労働者(1週間あたり40時間を超えた場合その超えた時間が1カ月あたり100時間を超えた労働者を想定)について、医師による面接指導を実施しなければならないこととします。 イ 労働時間の状況の把握(第66条の8の3)  事業者は、第66条の8第1項または上記アの面接指導を実施するため、省令で定める方法(タイムカード、ICカード等、客観的な方法によることを原則とすることを想定)により、労働者(下記ウの労働者を除く)の労働時間の状況を把握しなければならないこととします。 ウ 高度プロフェッショナル制度の対象労働者に対する面接指導等(第66条の8の4)  使用者は、高度プロフェッショナル制度の対象労働者であって、その健康管理時間(対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外で労働した時間との合計の時間)が省令で定める時間を超える労働者(1週間あたり40時間を超えた場合のその超えた時間が1カ月あたり100時間を超えた労働者を想定)について、医師による面接指導を実施しなければならないこととします。 エ その他(第66条の9関係)  事業者は、第66条の8第1項、上記ア・ウの面接指導を行う労働者以外の労働者のうち健康への配慮が必要なものについて、省令で定めるところにより、必要な措置を講ずるように努めなければならないこととします。 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律および労働契約法の一部改正  「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の対象に有期雇用労働者を追加して、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に改正し、それにともない「労働契約法」におけるいわゆる均衡待遇規定(第20条)を削除しています。 1 不合理な待遇の禁止(均衡待遇)(第8条)  事業主は、短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、@職務の内容、A当該職務の内容および配置の変更の範囲、Bその他の事情のうち、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理な待遇差を設けてはならないこととします。 2 通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止(均等待遇)(第9条)  事業主は、@職務の内容、A職務の内容および配置が当該通常の労働者の職務の内容および配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならないこととします。 3 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化(第14条)  事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、実施する雇用管理の改善措置の内容について、速やかに当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならないこととします。  また、事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容および理由、待遇を決定するにあたって考慮した事項について、説明しなければならないこととします。さらに、説明を求めたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこととします。 4 指針(第15条第1項)  通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で、いかなる待遇差が不合理であるか否かを示すガイドラインを策定することとします。 5 紛争の解決等(第18条および第22条から第26条)  行政による紛争解決援助等の対象に、均衡待遇規定に関することを追加します。また、有期雇用労働者についても新たに事業主に対する報告徴収・助言・指導等の根拠規定を整備します。 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律の一部改正 1 派遣先から派遣元事業主への待遇に関する情報の提供等(第26条第7項から第11項まで)  労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約を締結するに当たっては、あらかじめ、派遣元事業主に対し、派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象となる労働者の賃金その他の待遇に関する情報等を提供しなければならないこととします。  派遣元事業主は、労働者派遣の役務の提供を受けようとする者から前述の情報提供がないときは、当該者との間で、労働者派遣契約を締結してはならないこととします。  また、派遣先は、前述の情報に変更があったときは、遅滞なく、派遣元事業主に対し、当該変更の内容に関する情報を提供しなければならないこととします。  さらに、労働者派遣の役務の提供を受けようとする者および派遣先は、当該労働者派遣に関する料金の額について、派遣元事業主が、次の2を遵守することができるものとなるように配慮しなければならないこととします。 2 不合理な待遇の禁止等(第30条の3および第30条の4)  派遣労働者の待遇については、次の(1)派遣先に雇用される通常の労働者との均等・均衡待遇、(2)一定の要件を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保しなければならないこととします。 (1) 派遣先に雇用される通常の労働者との均等・均衡待遇  派遣元事業主は、派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において、@職務の内容、A当該職務の内容および配置の変更の範囲、Bその他の事情のうち、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理な待遇差を設けてはならないこととします。  派遣元事業主は、職務の内容が派遣先に雇用される通常の労働者と同一の派遣労働者であって、当該派遣先における派遣就業が終了するまでの全期間において、派遣先に雇用される通常の労働者と@職務の内容、A職務の内容および配置の変更の範囲が同一であると見込まれるものについては、正当な理由なく、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、通常の労働者の待遇に比して不利なものとしてはならないこととします。 (2) 一定の要件を満たす労使協定による待遇  派遣元事業主は、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その雇用する派遣労働者の待遇について、次に掲げる事項を定めたときは、(1)はアに掲げる範囲に属する派遣労働者の待遇については適用されないこととします。  ア 協定の対象となる派遣労働者の範囲  イ 賃金決定方法(次のa、bに該当するものに限る。)   a 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金額と同等以上の賃金の額となるものであること   b 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に賃金が改善されるものであること  ウ 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価して賃金を決定すること  エ 派遣労働者の待遇(賃金を除く。)の決定の方法(派遣元事業主に雇用される通常の労働者の待遇との間に不合理な待遇差が生じることとならないものに限る。)  オ 派遣労働者に対して段階的・体系的な教育訓練を実施すること  カ その他の事項 3 指針および紛争の解決(第47条の4から第47条の9までおよび第47条の11)  いかなる待遇差が不合理であるか否かを示すガイドラインを策定することとします。また、派遣労働者も行政による紛争解決援助等の対象とします。 雇用対策法の一部改正 1 題名および目的規定の改正について(題名及び第1条第1項関係)  少子高齢化、生産年齢人口の減少等の経済社会情勢の変化に対応するため、国は、労働施策を総合的に講ずること(働き方改革の総合的な推進)により、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその能力を有効に発揮することができるようにし、その職業の安定等を図っていくこと等を明らかにするため、法律の目的規定を改めました。また、法律の題名を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」に改めました。 2 国の施策について(第4条第1項関係)  労働者の多様な事情に応じた「職業生活の充実」等に対応し、国は、働き方改革を総合的に推進するために必要な施策として、現行の雇用関係の施策に加え、新たに、労働時間の短縮その他の労働条件の改善、雇用形態又は就業形態の異なる労働者の間の均衡のとれた待遇の確保、仕事と生活(育児、介護、治療)の両立等に関する施策を講じなければならないこととしました。 3 基本方針について(第10条関係)  国は、働き方改革に係る基本的な考え方を明らかにするとともに、改革を総合的かつ計画的に推進するため、労働施策の総合的な推進に関する基本的な方針(閣議決定)を定めることとし、その策定にあたっては、あらかじめ、都道府県知事の意見を求めるとともに、労働政策審議会の意見を聴かなければならないこととしました。 【P53】 10月は「高年齢者雇用支援月間」 高年齢者雇用開発フォーラムのご案内 (平成30年度高年齢者雇用開発コンテスト表彰式)  厚生労働省との共催により、高年齢者が働きやすい職場環境にするために企業などが行った創意工夫の事例を募集した「平成30 年度高年齢者雇用開発コンテスト」の表彰式および記念講演を行います。また、コンテスト入賞企業などによる事例発表や、学識者を交えたトークセッションを実施し、企業における高年齢者雇用の実態に迫ります。「人生100年時代」のなかで、「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいのかを一緒に考える機会としたいと思います。 日 時 平成30年10月3日(水)11:00〜16:10 受付開始10:00〜 場 所 イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビル) 東京メトロ日比谷線・千代田線「霞ヶ関」駅 C4 出口直結 東京メトロ丸ノ内線「霞ヶ関」駅 B2 出口徒歩5分 定 員 400名(先着順・入場無料) 主 催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 プログラム 11:00〜12:00 高年齢者雇用開発コンテスト表彰式 12:00〜13:00 (休憩) 13:00〜14:00 記念講演 「生涯現役社会の条件」 清家 篤 氏 日本私立学校振興・共済事業団理事長 前慶應義塾長 14:00〜15:00 事例発表 コンテスト入賞企業等3社程度 15:00〜15:10 (小休憩) 15:10〜16:10 トークセッション:「『生涯現役』を現場から考える」 パネリスト:コンテスト入賞企業等3社程度 コーディネーター:内田 賢 氏(東京学芸大学教育学部教授) ◆雇用相談コーナー……12:00〜16:30  ◆資料配付、ポスター・パネル展示……11:00〜16:30 ●参加申込方法 【申込必要事項】  @ 参加者のお名前(ふりがな)  A 会社名  B 参加者の役職  C 業種  D 企業全体の従業員数(おおよそで結構です)   ※ A〜Dは企業関係者の方のみご記入ください 左記の【申込必要事項】をメール本文にご記入いただき、メールのタイトルを「フォーラム申込み」として、con2018@jeed.or.jp あてにメールをお送りください。折り返し、お申込み受付確認のメールをお送りいたします(土日祝日など休日の場合やお申込みの集中状況により、ご連絡が遅くなる場合がございます)。 ※フォーラムの参加申込みによりいただいた個人情報については、フォーラム実施のためにのみ利用させていただきます。利用目的の範囲内で適切に扱うものとし、法令で定められた場合を除き、第三者には提供いたしません。 ● 参加申込締切 平成30年9月26日(水) ●お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 Mail:tkjyoke@jeed.or.jp 【P54-55】 入場 無料 平成30年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム  世界に類をみない高齢化が進むなか、高齢者を安定的に雇用することは、重要な課題の一つとなっています。政府においても、2018(平成30)年5月に開催された「人生100 年時代構想会議」においては、意欲ある高齢者が65歳以上まで働ける環境整備を進めていくこととされています。  そこで、「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を全国6カ所で開催します。本イベントでは、外部有識者による講演や、当機構が行った企業調査結果をもとに、継続雇用・定年延長によってもたらされた効果・メリットなどについて報告します。そのうえで、定年延長を行った企業事例の紹介・パネルディスカッションを行い、みなさまとともに継続雇用・定年延長について考えます。ぜひ、ご参加ください。 愛知 平成30年度高年齢者雇用推進セミナー 〜人生100年時代 継続雇用・定年延長を考える〜 日 時 平成30年10月9日(火)13:00〜16:00 (開場 12:30) 場 所 今池ガスビル9階 今池ガスホール  名古屋市千種区今池1-8-8 定 員 350人(先着順) 《プログラム》 講 演@ 「高齢社員の人事管理 60歳代以降を考える」 学習院大学名誉教授 学習院さくらアカデミー長 今野浩一郎 氏 講 演A 「継続雇用、定年延長へのアプローチ」 愛知学院大学経営学部経営学科 教授 関 千里 氏 企業事例 株式会社マキテック/社会福祉法人ひまわり福祉会 調査報告 「定年延長の課題と効果」 当機構 雇用推進・研究部長 浅野浩美 パネルディスカッション「継続雇用・定年延長を考える」 申込み方法 「参加申込書」を愛知県ホームページからダウンロードいただき、愛知県産業労働部労政局就業促進課あてにお申し込みください。 愛知県ホームページ http://www.pref.aichi.jp/soshiki/shugyo/k-2018-404.html また、当機構愛知支部のホームページからもダウンロードできます。ご不明な場合は、55ページの問合せ先(雇用推進・研究部 研究開発課)までご連絡ください。 広島 人生100年時代 継続雇用・定年延長を考える 〜生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム〜 日 時 平成30年10月12日(金)13:00 〜16:00 場 所 ホテルグランヴィア広島 4階 悠久 広島市南区松原町1-5(JR広島駅新幹線口直結) 定 員 150人(先着順) 《プログラム》 講 演@ 「高齢社員の人事管理 60歳代以降を考える」 学習院大学名誉教授 学習院さくらアカデミー長 今野浩一郎 氏 講 演A 「広島県内における高年齢者の雇用状況について」 広島労働局職業安定部職業対策課 企業事例 広島電鉄株式会社/株式会社虎屋本舗 調査報告 「定年延長の課題と効果」 当機構 雇用推進・研究部長 浅野浩美 パネルディスカッション「継続雇用・定年延長を考える」 申込み方法 「参加申込書」を当機構広島支部ホームページからダウンロードいただき、広島支部高齢・障害者業務課あてにお申し込みください。 広島支部ホームページ http://www.jeed.or.jp/location/shibu/hiroshima/elderlyseminar_H30.html ご不明な場合は、55ページの問合せ先(雇用推進・研究部 研究開発課)までご連絡ください。 開催予告 宮城 人生100年時代 継続雇用・定年延長を考える 〜生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム〜 日 時 平成30年11月9日(金)13:00〜16:10(予定) 場 所 宮城職業能力開発促進センター  宮城県多賀城市明月2-2-1(予定) 定 員 120人(先着順) 《プログラム》 講 演@ 「高齢社員の人事管理 〜現状と今後の展望〜」 千葉経済大学 経済学部 准教授 藤波美帆 氏 講 演A 「高年齢者雇用確保措置について」宮城労働局 企業事例 2社予定 調査報告 「定年延長の課題と効果」 当機構 雇用推進・研究部長 浅野浩美 パネルディスカッション「定年延長を考える」 申込み方法 本誌10月号にて、詳細や申込み方法などをお知らせします。 開催予告 福岡 人生100年時代 継続雇用・定年延長を考える 〜生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム〜 〈高年齢者雇用管理セミナー同時開催〉 日 時 平成30年11月16日(金)13:00〜16:40(予定) 場 所 福岡県福岡市内を予定 定 員 250人(先着順) 《プログラム》 講 演@ 「60歳代前半層の人事管理の整備と定年延長」 玉川大学経営学部国際経営学科 教授 大木栄一 氏 講 演A 「福岡県70歳現役社会づくりについて」 福岡県70歳現役応援センター 企業事例 2社予定 調査報告 「継続雇用・定年延長の課題と効果」 当機構 雇用推進・研究部長 浅野浩美 パネルディスカッション「継続雇用・定年延長を考える」 申込み方法 本誌10月号にて、詳細や申込み方法などをお知らせします。 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 http://www.jeed.or.jp/ 主催 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 後援 厚生労働省 【P56】 10月は「高年齢者雇用支援月間」 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップのご案内  高齢者雇用にご関心のある事業主や人事担当者のみなさま! 一億総活躍プラン、働き方改革実行計画が策定され、高齢者雇用へのご関心をお持ちの方も増えているのではないでしょうか。  当機構では各支部が中心となり、「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高齢者に戦力となってもらい、いきいき働いていただくための情報を提供します。  各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者雇用支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間となります) ●専門家による講演【高齢者雇用の現状や各種施策など】 ●事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ●ディスカッション ●質疑応答 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記の表を参照(平成30年8月16日現在確定分) ■ 開催スケジュール 都道府県 開催日 場所 北海道 10月26日(金) 北海道職業能力開発促進センター 青 森 10月23日(火) アピオあおもり 岩 手 10月25日(木) いわて県情報交流センター 秋 田 10月24日(水) 能代商工会議所 山 形 10月22日(月) 山形職業能力開発促進センター 福 島 10月31日(水) 福島職業能力開発促進センター 茨 城 10月12日(金) 日立地区産業支援センター 栃 木 10月17日(水) とちぎ福祉プラザ 群 馬 11月6日(火) 群馬職業能力開発促進センター 埼 玉 10月12日(金) 埼玉教育会館 千 葉 10月17日(水) ホテルポートプラザちば 神奈川 10月17日(水) 関内ホール 新 潟 10月10日(水) 新潟ユニゾンプラザ 富 山 10月23日(火) 富山県民共済センターサンフォルテ 石 川 10月30日(火) 石川職業能力開発促進センター 福 井 10月24日(水) 福井県中小企業産業大学校 山 梨 11月9日(金) かいてらす 長 野 10月23日(火) ホクト文化ホール 岐 阜 10月24日(水) OKBふれあい会館 静 岡 10月16日(火) 静岡職業能力開発促進センター 三 重 10月24日(水) フレックスホテル 都道府県 開催日 場所 滋 賀 10月11日(木) 草津市立市民交流プラザ 京 都 10月12日(金) 京都七条公共職業安定所 大 阪 10月24日(水) 関西職業能力開発促進センター 兵 庫 10月18日(木) 神戸市産業振興センター 奈 良 10月29日(月) ホテルリガーレ春日野 和歌山 10月10日(水) 和歌山ビッグ愛 鳥 取 10月30日(火) とりぎん文化会館 第四会議室 島 根 11月7日(水) 島根職業能力開発促進センター 島 根11月14日(水) 益田市市民学習センター 岡 山 10月25日(木) ピュアリティまきび 山 口 10月25日(木) 山口職業能力開発促進センター 徳 島 10月4日(木) 徳島県JA会館 香 川 10月25日(木) サンメッセ香川 特別会議室 愛 媛 10月11日(木) 愛媛職業能力開発促進センター 高 知 10月11日(木) 高知職業能力開発促進センター 佐 賀 10月19日(金) グランデはがくれ 長 崎 10月30日(火) 長崎県庁大会議室 熊 本 10月26日(金) ホテルメルパルク熊本 大 分 10月26日(金) トキハ会館 宮 崎 10月19日(金) 宮崎市民文化ホール 鹿児島 10月22日(月) 鹿児島市勤労者交流センター 沖 縄 10月10日(水) 那覇第2地方合同庁舎 各地域のワークショップ内容は、各道府県支部高齢・障害者業務課までお問合せください。 上記日程は予定であり、変更する可能性がありますので詳細はホームページをご覧ください。 また、変更がある道府県は決定次第ホームページでお知らせします。 jeed 生涯現役ワークショップ 検索 【P57】 BOOKS ベストセラーのエッセンスを凝縮、課題解決のヒントを提示 まんがでわかる 定年後 黄金の7法則 楠木(くすのき) 新(あらた) 監修/ 中央公論新社/ 1200円+税  本誌前号の「リーダーズトーク」に登場していただいた楠木新氏は、サラリーマン時代から多くの著作を世に送り出してきたことで知られている。その中でも『定年後』(中公新書)はビジネスパーソンを中心に好評で、刊行から一年経過したいまでもその勢いは続いているという。シニア社員や定年退職者、地域で活動する人たちを取材し、その生の声から定年後に待ち受ける「現実」を明らかにしたうえで、課題解決のためのヒントを具体的に示したことがヒットした要因と思われる。  本書は『定年後』の内容をより広く知ってもらうために、そのエッセンスを凝縮してストーリー仕立てにしたまんがである。まんが化の効果を確かめようと一読したが、活字とは違った親しみやすさを感じ、とりわけ20代から30代にかけての社員に手に取ってもらえれば、高齢期まで働くことの意義、定年後に向けてのライフプランを立てることの大切さを知ってもらうきっかけとなるのではないかと感じた。楠木氏が本書に寄せた、「現役で働いている人にとっても、一日一日を気持ちよく、いい顔で過ごせるヒントとなることを願っています」との言葉が実感できる好企画といえるだろう。 人生最大の岐路を乗り越えるためのヒントを提示 自分らしく生きる! 40代からはじめるキャリアのつくり方 ―「人生の転機」を乗り越えるために― 石川邦子(くにこ) 著/ 方丈社(ほうじょうしゃ)/ 1500円+税  多くの人にとって、人生最大の転機は中年期に直面するものらしい。中年期は老化を意識し始める時期であり、社会的な役割の先行きにも限界を感じ始める時期でもあるからだ。中年期の転機と、病気やケガなどによる「不可抗力による転機」を乗り越えるためには、大きなエネルギーが必要となるが、そのような転機を成長するよい機会ととらえて乗り越えなければ、さらなる成長はおぼつかず、高齢期まで充実した職業生活を歩むこともできないだろう。  人生の転機を成長の機会として乗り越えたい人に向けて、本書はまとめられた。「中年期のキャリアで悩んでいる方へ」、「組織内キャリアで悩んでいる方へ」、「ライフキャリアで悩んでいる方へ」、「独立するか否かで悩んでいる方へ」、「不可抗力な転機で悩んでいる方へ」という五つの章、そしてまとめである終章から構成されている。各章は著者自身の人生、そしてキャリアコンサルタントとしての経験をもとに、転機を乗り越えるための具体的なヒントが平易な言葉で盛り込まれている。職業生活が長期化するなか、「中年期からでも人は成長し、人脈や可能性を拡げていくことができる」ことを実感させてくれるのではないだろうか。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「過労死等の労災補償状況」を公表  厚生労働省は、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害の労災補償状況についてまとめた、2017(平成29)年度「過労死等の労災補償状況」を公表した。  それによると、脳・心臓疾患の労災請求件数は840件で、前年度(825件)と比べ15件(1・8%)増加した。また、業務上認定されたのは253件(当該年度内に業務上認定された件数で、当該年度以前に請求があったものを含む。以下同じ)で、前年度(260件)と比べ7件(2・7%)減少している。請求件数は3年連続の増加、業務上認定件数は2年ぶりの減少となった。年齢別にみると、請求件数は「50〜59歳」290件、「60歳以上」239件、「40〜49歳」230件の順で多く、業務上認定された件数は「40〜49歳」と「50〜59歳」がともに各97件、「60歳以上」32件の順に多い。  次に、精神障害についてみると、労災請求件数は1732件で、前年度(1586件)と比べ146件(9・2%)増加した。また、業務上認定されたのは506件で、前年度(498件)と比べ8件(1・6%)増加している。請求件数は5年連続の増加、業務上認定件数は2年連続の増加となった。なお、精神障害に係る労災請求事案の場合、精神障害の結果、自殺(未遂を含む)に至った事案があるが、2017年度は1732件中221件(うち業務上認定98件)となっている。 厚生労働省 「セルフ・キャリアドック」の導入を支援する拠点を開設  厚生労働省はこのほど、企業の「セルフ・キャリアドック」の導入を無料で支援する拠点を東京と大阪に開設した。  「セルフ・キャリアドック」とは、企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施することを通じて、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組みのこと。従業員の仕事に対するモチベーションアップや、定着率の向上などにより、企業の生産性向上にも寄与することが期待されている。  今回開設した2カ所の拠点では、企業内の人材育成・キャリア形成に精通した専門の導入キャリアコンサルタントを配置し、セルフ・キャリアドックの導入を検討する企業にアドバイスを行う。また、企業内でキャリアコンサルティングの機会を得ることがむずかしい人からの、仕事や将来のキャリアに関する相談にも専門のキャリアコンサルタントが応じる。  受付時間は、月曜から金曜の午前9時から午後5時まで(年末年始、祝日を除く)。  拠点の設置場所は次の通り。 【東京】 新宿区三栄町8 三栄ビル4階(電話:03-5361-6405) 【大阪】 大阪市西区西本町1-3-15 大阪建大ビルディング4階(電話:06-6543-2271) 【参考】セルフ・キャリアドック導入支援サイトhttp://selfcareerdock.mhlw.go.jp 厚生労働省 安全衛生優良企業の取組み事例を公表  厚生労働省は、安全衛生優良企業公表制度に基づく認定企業における社員の安全確保や健康増進に関する取組みを調査し、『社員の安全と健康が、企業の評価を上げる。―安全衛生優良企業公表制度の認定企業を訪ねて―』と題した報告書を取りまとめ、ホームページ上に公表した。  安全衛生優良企業公表制度は、働く人々の安全や健康を確保するための対策に積極的に取り組み、成果をあげた企業を厚生労働省が安全衛生優良企業として認定し、同省ホームページで公表するもの。認定企業の社会的な認知を高めるとともに、多くの企業に安全衛生の積極的な取組みの意識を高めさせていくために2015年に創設し、2018年4月末現在、35社を認定している。  今回公表した報告書は、認定企業5社を訪問し、安全衛生活動の取組み事例、問題解決のための創意工夫、認定後の効果などについて安全衛生担当者へのインタビューにより調査し、認定に至った各社の特色ある取組みを好事例として詳細に紹介。今後認定取得を目ざす企業や、安全衛生活動に課題を抱える企業に役立ててほしいとしている。  訪問先企業は、(株)みちのく銀行、宮崎工業(株)、アップコン(株)、パナソニックエコソリューションズ池田電機(株)、ニッポン高度紙工業(株)の5社。取組みの主な内容は、労働災害のデータ分析によるリスクアセスメントの推進/安全パトロールのマンネリ化や形骸化の防止、緊張感の醸成/社員等に対する危険体感教育などによる安全意識の喚起/社員の健康増進サポートの推進など。 東京都 テレワークの導入に取り組む企業に向けて実践事例集を作成  働き方改革を推進する起爆剤としてテレワークの普及促進に力を入れている東京都は、テレワークの導入に取り組む企業を応援するために、『東京発! 都内企業に学ぶテレワーク実践事例集』を作成した。  東京都では、「テレワークの活用促進に向けたモデル実証事業」を実施しており、2017(平成29)年度については、19社のモデル企業が実証を実施。本事例集はその実証結果をふまえて、モデル実証事業で得られた好事例などを収集した東京都発の最初の「テレワーク実践事例集」。  掲載内容は、テレワークの概要から導入のポイント、導入の効果、モデル実証事業参加企業へのアンケート調査結果、モデル実証事業参加企業(19社)の取組み(導入概要、導入効果など)事例と、既にテレワークを導入し効果的に運用している企業(10社)の取組み事例や導入企業からのアドバイスなど、具体的で多様な先進事例が豊富に盛り込まれている。  また、参考情報として、都内企業におけるテレワークの導入をワンストップで支援するため、東京都と国が連携して2017年に開設した「東京テレワーク推進センター」の活用法なども紹介。テレワークの導入を検討している企業や、取組みを始めて課題に直面している企業のヒントとなる情報が満載の一冊となっている。  本事例集は、東京都のサイト「TOKYOはたらくネット」の分野別メニュー〈働き方改革〉からダウンロードすることができる。 調査・研究 日本生産性本部/日本経済青年協議会 新入社員「働くことの意識」調査結果  公益財団法人日本生産性本部と一般社団法人日本経済青年協議会はこのほど、2018(平成30)年度の新入社員1644人を対象にした「働くことの意識」調査結果を公表した。調査は、1969年度から毎年実施し、50回目を数える。  調査結果によると、「働く目的」については、過去最高だった前年度より減少したものの「楽しい生活をしたい」(2017年度42・6%↓2018年度41・1%)が最も高く、次いで「経済的に豊かな生活を送りたい」(同26・7%↓同30・4%)で過去最高を更新。一方、「自分の能力をためす」は過去最低だった(同10・9%↓同10・0%)。  「人並み以上に働きたいか」については、「人並みで十分」が過去最高を更新(同57・6%↓同61・6%)し、減少が続く「人並み以上に働きたい」(同34・9%↓同31・3%)との差も過去最高の30・3%(2017年度22・7%)に開いた。  就労意識について4段階で問う質問で、「あまり収入がよくなくても、やり甲斐のある仕事がしたい」という項目に「そう思う」、「ややそう思う」と回答した人の割合は合計50・5%で、前年度より2・3%減少し、5年前との比較では16・5%減少した。一方、5年前との比較で増加が大きかったのは「リーダーになって苦労するより、人に従っているほうが気楽でいい」という項目で、「そう思う」、「ややそう思う」と回答した人の割合は合計56・2%で、5年前より9・9%増加した。 発行物 生命保険文化センター 『ねんきんガイド』を改訂  公益財団法人生命保険文化センターはこのほど、小冊子『ねんきんガイド 今から考える老後保障』を改訂した(B5判、カラー68頁)。  この小冊子は、老後の生活資金の準備を考えるために役立つよう、公的年金の基礎知識や個人年金保険の基本的な仕組み・契約の際の注意点などをまとめたもの。豊富な図表や具体的な計算事例、Q&Aを用いて、わかりやすく解説している。  今回は主に、次の点が改訂された。  「公的年金」について、2018年度より物価などの上昇時に年金額の伸びを調整する年金額の改定ルールが見直されたことをふまえて、この見直しの内容に関するコラムが新設された。また、低金利が続くなか、取り扱う生命保険会社の多い外貨建ての「個人年金保険」について、商品例を追加するなど内容を充実させた。加えて、長寿や老後の資金準備に関するデータなども追加された。資料編では、「ねんきん定期便」を取り上げるなど内容が改められた。  一冊100円(税込み)、別途送料160円。申込みは、同センターのホームページまで。http://www.jili.or.jp/index.html 【P60】 次号予告 10月号 特集 高齢者が活躍する職場の実現へ 平成30年度 高年齢者雇用開発コンテストT 厚生労働大臣表彰受賞企業事例 リーダーズトーク 水谷 典雄さん(株式会社明電舎 執行役員) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttp://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには−− 本誌の定期購読は株式会社労働調査会にお申し込みください。1冊ずつの購入もこちらで受けつけます。 ★定期購読についてのお申し込み・お問合せ先:株式会社労働調査会  〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ★雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご注文いただくこともできます。URL http://www.fujisan.co.jp/m-elder 編集アドバイザー(五十音順) 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢 春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷 寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本 節郎……株式会社博報堂エルダーナレッジ開発 新しい大人文化研究所所長 清家 武彦……一般社団法人日本経済団体連合会 労働政策本部 上席主幹 深尾 凱子……ジャーナリスト、元読売新聞編集委員 藤村 博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下 陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア 京子……アテナHROD代表、学習院大学特別客員教授 編集後記 ●継続雇用や定年延長の進展により、職場では、多くの高齢従業員が活躍しています。2017(平成29)年の「労働力調査(総務省)」によれば、60〜64歳の就業者数は536万人、65歳以上では822万人にもおよび、就業者全体の約2割を60歳以上が占めています。職場における高齢者の存在は、人材確保の側面もありますが、長年つちかわれてきた知識や経験、技術は、会社にとっての大きな財産。だからこそ、高齢従業員が安全・健康に働ける職場環境の整備は重要になります。  そこで今回の特集では「高齢従業員の安全・健康確保に向けて」と題し、三つの企業の取組みを紹介しています。いずれの会社でも、いわゆる「労働災害」を防止するための対処療法的な作業環境の整備だけではなく、高齢従業員自身の健康・体力づくりに重きを置いた取組みを行っています。ぜひ参考にしていただき、高齢従業員はもちろん、全従業員が安全・健康に働ける職場づくりの参考にしていただければ幸いです。  また、中央労働災害防止協会(中災防)が作成した「エイジアクション100」は、チェックリスト形式で、職場の課題を洗い出すことができます。中災防のホームページからダウンロードできますので、こちらもぜひご活用ください。 ●毎年10月は「高年齢者雇用支援月間」。高年齢者雇用開発コンテストの表彰式も行われる「高年齢者雇用開発フォーラム」が東京で開催されるほか、高齢者雇用の実践的な手法が学べる「地域ワークショップ」が全国43カ所で開催されます。さらに、10月から1月にかけて、「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」が全国6カ所で開催予定です。いずれも入場無料で、講演やパネルディスカッションなど、充実した内容となっています。読者のみなさまの参加をお待ちしております。 月刊エルダー9月号 No.467 ●発行日−平成30年9月1日(第40巻 第9号 通巻467号) ●発 行−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 発行人−企画部長 片淵仁文 編集人−企画部次長 中村雅子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2  TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL http://www.jeed.or.jp  メールアドレス elder@jeed.or.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5  TEL 03(3915)6401  FAX 03(3918)8618 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.292 創意工夫の手づくり椅子、将来性は十分な仕事 椅子張り職人 種沢(たねざわ)邦勝(くにかつ)さん(73歳) 「分業制ではなく座部の肉づけから張りまで一人でできるように指導。仕事を覚えたら独立するという目標を持ってほしい」 伝統の高級家具の地で修業、37歳で独立創業  秋田県由利本荘(ゆりほんじょう)市出身の種沢邦勝さんは、中学を卒業して1961(昭和36)年に上京、東京都港区新橋の家具会社に椅子張り職人として就職した。少年時代にはさまざまな工夫を凝らした模型飛行機づくりに熱中していたというが、手先の器用さと創意工夫の才を活かした椅子張り修業のスタートである。以来、今日まで57年、家具製作が天職となった。  「1960年代初めの東京は都電が縦横に走り、新橋周辺には家具店が集積していました。明治から戦前にかけて芝地域の地場産業として有名であった高級家具『芝家具(しばかぐ)』の伝統を引き継いだ家具工場が集まっていたのですが、高度成長期を経て土地の値上がりなどにより他地域に移転するなど、現在はまったく様変わりしてしまいました。私の職場も移転しましたが、独立創業まで20年ほど修業を積んで一人前にしていただき、ほんとうに感謝しています」  種沢さんは37歳で大田区東雪谷(ひがしゆきがや)に種沢製作所として独立創業、2007(平成19)年には株式会社種沢製作所に組織変更し、現在同区矢口(やぐち)に移転、新工場を設立。  「椅子・ソファーの企画、設計、製造、販売だけでなく、張替え、家具の修理・塗装など幅広く注文に応じています。家庭用からホテルや事務所などで使用されるものまで広範囲ですが、最近ではデザイナーが描いた設計図から完成品をつくる仕事も増えています。  例えば、脚の湾曲した椅子のデザイン指定でも木材を単純に曲げるのではなく、“削り出し”でやってくれという注文があれば、それに対応します。うちは手づくりが売りですから手間がかかり経費は高くつきますが、お客さまの考えを最大限尊重しています」 若い世代の感覚も活かし、技術伝承も順調  写真で紹介した同社の製品はほんの一部で、同社ホームページには納品済みで好評を博した多彩な作品が紹介されている。  「張る素材(生地)も、重厚でシックなものから鮮やかな色彩のものまでさまざまです。若い人の感覚を活かしたカラフルなものも多いですが、設置場所との兼ね合いも重要になります」  スタッフは種沢さん以外に11人。2級技能士1人を除いて10人が1級家具製造技能士(いす張り作業)である。68歳、62歳の2人以外は40代以下の社員で、うち2人は20代。若い世代への技能伝承もうまくいっているという。  「分業制にしたほうが生産性は上がるかもしれませんが、座部の肉(にく)づけから張りの工程まですべて一人でできるように教えています。仕事を覚えたら独立するという目標を持ってほしいですね」  15年ほど前は、東京椅子張同業者連合会には200社近い会社が所属し、椅子張り職人も500人近くいたが、現在では40社ほどになっているという。  「大量生産ではない、手づくりの椅子張り職人は減っているのかもしれませんが、うちの場合、新規の製造もさることながら、使い込んだ愛着のある古家具(こかぐ)の修繕やリメイクが増えてきたように思います。技術さえあれば将来性は十分にある仕事だと思いますよ」 ものづくり教育や環境対策にも貢献する  2006年に東京マイスター、2008年に全国技能士会連合会(全技連)マイスターに認定された。中央技能検定委員としても活躍し、研修会講師として若手技能者の技術指導を行う一方、小中学生を対象にしたものづくり教育にも力を注いでいる。  「教育現場では環境問題への関心も高まっています。当社では、天然素材の製品もつくっており、廃棄物の削減にも努めています。当社独自のエコプロジェクトとして、社員に自転車通勤を推奨中です」  幅広い話題を折り込んだ技術指導やものづくり教育は高く評価されている。 株式会社種沢製作所 TEL:03(5482)7002 FAX:03(5482)6363 http://www.tanezawa.co.jp/ (撮影・福田栄夫/取材・吉田孝一) 表生地をかぶせる前のソファーのクッション材(ウレタンフォーム)の肉づけ具合をチェックする。座り心地を左右する大切な要素だ 椅子・ソファーの張替えの注文は増えている(同社店頭の看板) 古家具の重厚な風格の台座のソファーが張替えによって再生された この椅子の湾曲した脚は曲げではなく顧客の注文により削り出した この日に工場にいたスタッフに囲まれる種沢さん(中央) 順調に育ち独り立ちする中堅社員。作業は一人で全工程行うことが原則 ミシン場の棚には多彩な色合いの糸や補強のクッション材が並ぶ 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! 今回は「ダブレット」という言葉遊びです。記憶や思考にかかわる前頭前野、言葉を読み、聞き、話すことにかかわる言語野などが活性化します。 第16回 ダブレット(言葉の変化) 目標2分 例題のように、言葉の1文字だけを変えながら、言葉の移り変わりを完成させましょう。ヒントも参考にしながら、考えましょう。 意味のない文字の連なりができてはいけません。 例題 くらす ヒント 黒い鳥 からし 答え からす @ みなり 島根と鳥取の位置関係 とまり リコピンが豊富 やまと A すけーる フィギュア、スピード すけっと 「下町◯◯◯◯」はドラマ化もされました ろぼっと B おんせい 人も卵も入るとほかほか おんじん 車も飛行機もこれで動く えんまん C ていねい 外からの見え方 てんさい ワラビやゼンマイなど さんさろ ダブレット(言葉の変化)で遊ぼう  「ダブレット」とは、言葉を1文字ずつ変えて、まったく違う言葉にしていく遊びで、古くから親しまれています。準備するものは紙と筆記用具のみで、場所を選ばず、一人でも複数人でもできます。語彙(ごい)力とひらめきが要求される遊びです。ぜひ、みなさんで楽しんでみてください。 □ 一人で遊ぶ場合 最初と最後の単語を決めてスタート。最初は3文字でスタートし、慣れてきたら文字を増やしていく。 □ 複数人で遊ぶ場合  @3文字の単語を書いた紙をたくさん用意し、親と制限時間を決める。  A 親が最初の言葉と最後の言葉を無作為に選び、合図で一斉にスタート。  B 制限時間終了時に最後の言葉までつなげられなかった人はペナルティ10点。最後までつなげられた人は順番に言葉の変化を発表。  C 発表者が順番に変化させた言葉のなかに、意味のわからないフレーズがあったら「異議」を唱える。「異議」に対し、言葉の意味を答えられなかった発表者はペナルティ5点。  D 最後まで言葉をつなげられた人のうち、7回以内の変化で最後の言葉につながった場合は0点。それ以上の場合は1回増えるごとにペナルティ1点。  Eペナルティの合計がいちばん少なかった人が優勝。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 @ となり/とまと A すけーと/ろけっと B おんせん/えんじん C ていさい/さんさい 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2018年9月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市大字漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〃 〃 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〃 〃 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 奈良県橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町大字若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 10月は「高年齢者雇用支援月間」です 高年齢者雇用開発フォーラムのご案内 (平成30年度高年齢者雇用開発コンテスト表彰式)  厚生労働省との共催により、高年齢者が働きやすい職場環境にするために企業などが行った創意工夫の事例を募集した「平成30年度高年齢者雇用開発コンテスト」の表彰式および記念講演を行います。また、コンテスト入賞企業などによる事例発表や学識者を交えたトークセッションを実施し、企業における高年齢者雇用の実態に迫ります。「人生100年時代」のなかで、「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいのかを一緒に考える機会としたいと思います。 日 時 平成30年10月3日(水)11:00〜16:10 受付開始10:00〜 場 所 イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビル) 東京メトロ日比谷線・千代田線「霞ヶ関」駅 C4 出口直結 東京メトロ丸ノ内線「霞ヶ関」駅 B2 出口徒歩5分 定 員 400名(先着順・入場無料) 主 催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップのご案内  高齢者雇用にご関心のある事業主や人事担当者のみなさま! 一億総活躍プラン、働き方改革実行計画が策定され、高齢者雇用にご関心をお持ちの方も増えているのではないでしょうか。当機構では各支部が中心となり、「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高齢者に戦力となってもらい、いきいき働いていただくための情報を提供します。各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者雇用支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間で実施します) ●専門家による講演【高齢者雇用に係る現状や各種施策など】 ●事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ●ディスカッション ●質疑応答 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催内容の詳細およびお申込みについては、本誌53〜56ページをご参照ください。 2018 9 平成30年9月1日発行(毎月1回1日発行) 第40巻第9号通巻467号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会定価(本体458円+税)